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 アメリカはかつて日本が経済大国にのし上がり、アメリカ国内産業を脅かした1980年代、ジャパンバッシングを繰り返しました。当時、若さにまかせて全米を取材した私は、連邦政府と州政府の温度差が相当あることや、長年、環大西洋同盟関係にあった欧州在米企業へのバッシングはないことに気づき、公正さにかけるバッシングだという印象を持ちました。

 アメリカの歴史上初の領土攻撃だった真珠湾襲撃から始まった太平洋戦争は、これも人類史上初のアメリカの核攻撃で終結したわけですが、戦後、日本が再び実力を蓄え、再びアメリカに経済侵略しているとの脅威論が全米に広まったのが1980年代後半でした。

 当時の米ウォールストリートジャーナル(WSJ)に日本関連の記事が載らない日はなく、その数ももしかすると今の中国関連記事より多かったかもしれないほどでした。これを見たフランスや英国など欧州諸国も危機感を抱き、対抗するためにフランス発の日仏経営大学院が設立されるなどし、私も設立に関与しました。

 トラン政権は今回、サイバーセキュリティー上のリスクを理由に、ファーウェイを第5世代移動通信システム(5G)の入札から排除することを決め、欧州政府に同様な措置を取るよう迫っています。アメリカ政府はファーウェイがアメリカ企業から部品を調達することや、同社の新型スマートフォンでグーグルの携帯端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」の一定機能使用を阻止する構えです。

 一方、ファーウェイ側は、ファーウェイの提供する5G 通信インフラ導入に前向きなマクロン仏大統領やメルケル独首相に対して、セキュリティー上の懸念払しょくのため、EU域内のあらゆる政府や顧客と、スパイ行為禁止の合意書に署名する用意があると言っています。

 最近、欧州連合(EU)の中国進出企業で構成される在中欧州商工会議所に相当する中国欧盟商会(会員企業数:約1,600社)は、中国に進出時に技術移転を強要された欧州企業は2割に上り、増加している実態を明らかにしました。中国欧盟商会は昨年11月にも中国政府が外資に対して約束した政策を履行していないとの不満を公式に表明しています。

 その一方で経済が停滞がちなEUは、慎重ながら中国との経済関係を深めており、特にアメリカのトランプ政権を嫌っている立場から、今回のような中国バッシングへ同調するつもりもない空気です。

 肝心のアメリカでも、対中強硬姿勢のトランプ氏に対する批判もあり、保守派のWSJでさえ、「ファーウェイは米国経済を活性化させ、デジタル・インフラ強化の機会だ。アメリカはファーウェイを、経済自立国家の夢にふける中国強硬派の腕の中に押し込むのではなく、米国主導のシステムの勝利の証しとして受け入れるべきだ」とのIT専門家の意見を掲載しています。

 しかし、問題の本質はデジタル・インフラや経済活性化に役立つという話でも、アメリカ第1主義の保護政策だけでもないところが、話を複雑にしています。そこは対日バッシングの時代と大きく違っているところで、同じなのは公正さを欠いている態度だということくらいです。

 WSJのファーウェイ擁護のIT専門家の意見では、創業者の任正非(レン・ツェンフェイ)氏は、中国のスパイ行為の手先になるような人物ではないと指摘しています。しかし、かりにそうだったとしても強力な支配力を持つ中国政府と対峙できる人間などいないはずです。

 つまり、このまま中国共産党が支配する中国を放置すれば、中国は国民が共感できる中華思想を利用して世界を制覇する野望に突進するという脅威論があることが、問題の本質といえます。そこには米中が共通して信じる「強い者が世界のルールを決め、自分に最大限の利益をもたらし、世界を思い通りにできる」という観念があります。

 一方は社会主義理想、もう一方は自由主義理想を追求しているわけで、単純な多文化共存主義とは相いれないものです。集めた金を人類のために最も有効に仕えるのは自分だと主張しているわけです。だとすれば、2つの考え方の正当性の吟味が必要であり、単なる世界第1位と2位の2国間の貿易戦争ではないということになります。

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