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 ポピュリズムは今の国民感情や本音を映し出すという意味で民主主義的だという人もいますが、その感情が移ろいやすく、今日国民が望んでいることが明日には変わる不安定さがあります。議会制民主主義の最後の手段ともいわれる国民投票が英国は欧州連合(EU)離脱の是非を問うためために実施されましたが、まんまとポピュリズムの手中にはまってしまった印象です。

 メイ英首相が涙ながらに6月7日に辞任することを表明し、これを受け、マクロン仏大統領は「英国は早急にブレグジットをどうしたいのか説明すべきだ」と述べました。欧州委員会のモスコビッチ経済担当委員は、今、行われている欧州議会選挙は過去のいかなる時代よりも危険な状況にあるとの認識を示し、極右のEU懐疑派が勢力を伸ばせば「EUは破壊されるかもしれない」といっています。

 果たしてメイ首相の辞任表明のタイミングは何を意味しているのでしょうか。英国は自国のことさえ考えていればいいかもしれませんが、離脱延期は欧州議会選挙にも影響を与えています。

 深読みすれば離脱協議で英国の要求を受け入れてくれないEUに対して、結果として故意的かどうかは別として、中途半端な欧州議会選挙への参加やメイ首相の辞任で、EUに混乱をもたらそうとしているともいえます。

 英国は2016年6月の国民投票以来、国民は2分され、離脱派と残留派の対立は今日まで続いています。なぜここまでメイ首相は国内世論をまとめきれなかったのかという疑問があるわけですが、国民投票のきっかけは、当時のキャメロン首相が与党・保守党内の離脱強硬派の考えを変えさせることができず、残留は確実と踏んで国民投票に打って出たことにあります。

 政治家が自らの指導力のなさから国民投票を行い、想定外の結果をもたらし、政治的混乱が起きた好例になってしまいました。離脱派の主張は、いかにも英国的で具体的なヴィジョンやロードマップはなく、とにかく英国がEU支配から脱し、完全な形で主権を取り戻せば、全てがうまくいくの一点張りでした。

 当時、離脱強硬派のイギリス独立党(UKIP)のファラージ党首やロンドン市長のジョンソン氏は、EUに支払っている分担金がなくなり、増える移民やポーランド人たちがいなくなれば、労働者階級まで豊かになれると巧みに国民を誘導し、そこには嘘の数字もあったわけですが、政治経済の知識の薄い労働者階級は彼らの明快な説得力のある演説によって離脱に投票したといわれています。

 しかし、離脱が決まった当初から指摘されていた唯一地続きの英領北アイルランドとアイルランドの国境の検問問題と通商交渉が、最後まで合意に至らず、EUとの貿易関係を維持したいメイ首相は、完全主権復帰をめざす離脱派を説得できず、出口を見出すことはできませんでした。

 そこで見えるものは、英国の離脱強硬派に果たして具体的な離脱に関わる具体的ヴィジョンがあったのかということです。これは会社のアライアンス解消とか、夫婦の離婚と違い、地理的にも経済依存度からいっても、離脱後も関係が続くということです。だから離脱すれば、全てがうまくいくという単純なものではないはずです。

 メイ首相は国民投票を受け、最初はハードエグジットを国民は望んでいるとして、その路線を突っ走り、総選挙で残留派だった労働党に多くの票を奪われたのを見て、ソフトエグジット路線に舵を切りました。彼女にいわせれば国の指導者は国民の望むことを実現させるのが基本なので、それで一生懸命、まじめに今日までやってきたといいたのだと思います。

 最後は苦し紛れに国民投票のやり直しを提案し、足下の議会重鎮の保守党の院内総務が反発して辞任する事態になり、万策尽きた形です。しかし、そもそもヴィジョンを練り上げるよりも、交渉過程で考えながら物事を決めていく英国流のやり方が、今回は裏目に出たのではと私は個人的に見ています。

 これがフランスやドイツだったら、最初の段階でのヴィジョンや目標設定に時間をかけるのが慣例です。イギリス人は歩きながら考え、フランス人は考えた後で走り出すといいますが、歩きながら考えてもうまくはいかないこともあるということなのかもしれません。

 メイ首相が官僚的政治家なのに対して、アジテーターのファラージ氏やジョンソン氏は、演説を聞いているだけで感情が高ぶるという絶大な効果があり、アジテーションの弱い大衆への影響は絶大です。私はヨーロッパで最も階級社会を温存してきた英国が直面した大衆政治の限界を見ているように思えます。

 議会制民主主義発祥の地で、国民投票で国の行方を決めるのは暴挙というしかありません。アメリカほどの平等社会ではない英国で、人数は多いが下層階級に押し込められた有権者が国民投票では影響を与えるのは必至です。無論、中産階級以上の人々にも離脱派はいますが。

 ジョンソン氏は繰り返し、合意なき離脱でも主権を完全に取り戻せば、英国は今よりはるかにうまくやっていけるといいますが、その根拠はEU政策への批判であって、それ以外の明確な根拠は示されていません。むしろ、フランスの極右・国民連合を率いるルペン氏の方が、突然のEU破壊よりもEUの抜本改革を提案している方が説得力を持つように見えるのは不思議なことです。

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