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 欧州議会選挙は、投票率が50.95%と5年前過去最低だった42.61%を大きく上回り、関心の高さを示しました。同時に中道右派・左派の対立軸が、リベラル派対国家優先主義へと政治の対立軸が根本的に変化したことを見せつけた選挙でした。さらに既存政党の衰退で漁夫の利を得たのは環境政党でした。

 その変化をまざまざと見せつけたのが、フランスのケースです。2年前まで既存大政党だった中道右派の共和党と中道左派の社会党は完全に影を潜め、代わって勢いを増すマリーヌ・ルペン党首率いる右派・国民連合(RN)とマクロン仏大統領率いる中道の共和国前進(REM)の一騎討ちの様相を呈し、結果、RNが僅差でREMに勝利し、前回同様トップの座を守りました。

 2年前の大統領選の決選投票でルペン氏に競り勝ったマクロン氏は、何がなんでもRNの台頭は抑えたいと望んだ今回の選挙でしたが、敗北を帰しました。残る3年の任期の政治運営に影響を与えるのは必至と見られ、一方、RN側は大差での勝利ではなかったことで、諸手を上げて喜ぶ状況にはありません。

 実はマクロン氏率いるREMは、親EUリベラル派といわれ、統合は推進するものの本格的なEU改革にも取り組むことを約束しています。このリベラル派は欧州全体で新たな一つの流れを形成し、今回の選挙でも中道右派・左派の親EU派の拠り所になり、一定の支持を集めました。

 一方、極右から極左まで、ポピュリズム政党と呼ばれたEU懐疑派は、英国のEU離脱の迷走を見てEU潰しや離脱を口にすれば支持者が離れる懸念もあり、ルペン氏もイタリアの極右・同盟のサルヴィーニ副首相も「内からのEU改革」という現実路線を主張し、支持を集めました。

 両者共にEU改革を口にし、一方のEUリベラル派はEUの統治機構を改革し結束強化をめざし、EU懐疑派は、各加盟国の主権を重視する連合体制を主張する構図となりました。EUリベラル派は、かつては企業寄りの自由貿易によるグローバル化推進支持派だったわけですが、黄色いベスト運動などで弱者へも気を配るようになりました。

 ヨーロッパは長い間、右派と左派という対立軸が政治の世界では定着し、それは冷戦以降も続きました。かつてドイツ鉄鋼連盟会長だったルプレヒト・フォンドラン独国会議員(当時)にインタビューした時、「われわれ西ヨーロッパの政治家は、あまりにも長い年月イデオロギー闘争に明け暮れたため、東西冷戦が終わっても、なかなか頭を切り換えられない」といっていたのを思い出します。

 やがて左右の対立軸は両者が中道に寄り、政策の違いもはっきりしなくなり、フランスでは左派のオランド前政権下でもリベラルな経済政策が当然とされ、福祉政策は隅に追いやられました。しかし、中道の左右の対立もマクロン氏の登場で、右でもない左でもない中道が支持され、今に至っています。

 一方、極右で出発した父のルペンが創設した国民戦線は娘の時代になり、かつて敵視していた左派をも取り込むナショナリスト政党として政権を伺うレベルに達しています。父ルペンは私との食事で冗談にも共産主義者を非難する言葉が含まれるほどの反共の闘志でしたが、大きく様変わりしています。

 この新たな中道リベラルとナショナリスト勢力の対立軸の登場で、冷戦時代から糸を引いていたイデオロギー的対立は完全に終息し、残ったのは主張のはっきりしている環境政党くらいです。問題は中道右派・左派の既存大政党への政治不信から生れた中道リベラル派政党とナショナリスト政党ですが、政治、経済運営で未知数だということです。

 特にナショナリスト政党の中には、今回首位に経ったファラージ氏率いる英国のブレグジット党のように離脱後の明確なロードマップも具体的政策もなく、EUから出れば何でもうまくいくといった無責任な政党も多いため、政治が彼らに振り回され、全体が弱体化するリスクもあります。

 欧州議会選挙でEUは新たなページがめくられたわけですが、さらなる混迷が待っているかもしれません。興味深いのは中道リベラル派は反トランプなのに対して、ナショナリスト党は親トランプというのも時代を表しているといえそうです。

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