20年前、アメリカの中国外交の優れた専門家数人が「戦後の対中アメリカ外交は成功した試しがない」と指摘したことがありました。あれから20年「中国に通用しない欧米経済モデル、米国やっと学習」という記事が今月28日付けの米ウォールストリートジャーナルに掲載されました。
人に根付いた固定観念は大きいもので、数年前から中国のデジタル端末には、中国共産党が情報収集のためにバックドアソフトを忍ばせているとか、大学の研究室やシリコンバレーから貴重な技術や機密性の高い情報が盗まれているとか指摘されていても、どこかで中国を信じようとする方が優勢でした。
そうでなければ、世界に冠たるIBMがPC部門を中国のレノボに売却することも、そのレノボが米携帯端末メーカーのモトローラを買収することも許さなかったはずです。ところが今ではファーウェイがいかに不当に高度な技術を盗んできたかを、元社員などの証言と共に一流メディアが連日報じています。
トランプ大統領と鋭く対立する民主党でさえ、対中強硬政策には賛同しており、クリントン夫妻が中国とズブズブの関係だった時とは大きく様変わりしています。大枚を叩いた激しい中国のロビー活動も効果が失われてつつある状態です。
経済悪化を避けたいトランプ氏が米中貿易協議を早期に妥結させるという観測もありますが、中国に要求している外国企業に対する不当な技術供与の強制など、何らかの明確な解答と再発防止の監視システムの約束を引き出せなければ、簡単に妥結するとも思えません。
米中関係に限らず、人間は異文化を理解しようとする時、大抵は自分に備わった常識や価値観で構成されたコンテクスト(文脈)で読み込もうとします。どんなに風土や歴史、民族、宗教が違ったとしても人間としての共通性はあると考え「相手も同じ人間だから、同じように考えるだろう」と思ってしまいがちです。
無論、人間としての共通項を見つけることは異文化理解では非常に重要ですし、違いが強調され過ぎると理解する努力は遠のき「どうせ違うのだから」とネガティブサイクルに入るリスクが高まります。私自身もフランスに移住した約30年前、日本的常識からフランスに対して強いネガティブサイクルに入った時期がありました。
それより、もっと凄い経験は、30年以上一緒に暮らすフランス人の妻を通して発見する文化的違いは、今でも毎日のようにあることです。人間は歳を重ねると、育った時期の自分に戻っていくという話もありますが、そうだとすれば、これまでの積み重ねがなければ、国際結婚した夫婦は年とともに厳しさを増すことになります。
私は日本人として育ったし、特に九州の封建的ともいえる環境で育ったこともあり、夫婦の関係性や男女の役割について身についているものがあります。私の妻はフランスでは最もカトリックが強く、古い家父長制が残った地域で育ったので、共通項もありますが、たとえば、私は逆立ちしてもフランス人的個人主義者にはなれません。
しかし、たとえば、フランス人にも本音と建前はありますが、日本人に比べれば、そのギャップは少なく、建前で夫婦を続け、ある日突然、妻が夫に離婚を言い渡すといったことはありません。日本のように強い社会的規範を優先するあまり、本音が抑えつけられ、突然、爆発するようなことはなく、自分の本音を丁寧に伝えるコミュニケーション力はフランス人の方があるといえます。
数年前、ある会合で日本のテレビによく出るインテリの若いコメンテーターと立ち話した際「フランスは、もうだめでしょう。間違った考えを持っていますからね」といわれ、自分の30年前を思い出しました。よくも分かっていないのに日本的コンテクストでフランスを裁く典型的な現象ですが、そのコメンテーターは、全て世界のことは分かっているという態度で驚きました。
グローバルビジネスの現場でも、経験豊富で実績のある人が支社長や工場長として海外に派遣された場合に、自分は全部分かっているという態度で、ナショナルスタッフに接する人を少なからず見ることがあります。無論、自身の経験やそこから得た教訓は貴重ですが、問題はそれは日本人にだけ通用する教訓かもしれないということです。
外交も同じで外交に携わる政治家や外務省職員が陥りやすいのが、日本的常識を相手に当てはめていることです。たとえば、日本国内では「誠意を示せば、相手に伝わる」といいますが、その常識を近隣職国に当てはめて、成功した試しはありません。
生き延びること事態が困難な国では、自分を守るための嘘は日常茶飯事で、誠意はリスクと考える国も少なくありません。日本でも誠意が伝わらない人間はいますが、育ちのいい人間ほど、過度の性善説を信じ、無防備な傾向があります。自分の地位や裕福さにゆえに媚びているだけで誠意が通じているわけではないことに気づかないケースもあります。
多文化の移民国家のアメリカでさえ、中国を長年、読み誤ってきたくらいですから、自分たちが信じていることが、まったく相手に通じない状況は想定しにくいものです。だからこそ、グローバルビジネスは難しいのであって、異文化理解を軽視したために世界のあちこちで企業は大なり小なり失敗を繰り返しています。
自分のアイデンティティは、はっきりしておく必要がありますが、相手に何が通じ、何が通じないかを見極めることが必要です。東洋的には、まずは信頼関係構築が先と考えますが、だからといって飲み食い、ゴルフで構築した人間関係だけでビジネスを成功させることはできません。
逆に信頼関係を重視しすぎたために、馴れ合いの関係が互いに不利益をもたらす例もあります。たとえば20年前の日産の部品メーカーやディーラーとの関係、労組との関係がそれです。
もしかしたら、安倍首相が築くトランプ氏との信頼関係が、国益維持に繋がらない可能性もあります。実際、ロシアのプーチン大統領とも長い付き合いですが、だからといって北方領土返還に繋がるとは限りません。ソ連崩壊時にレーガンやブッシュ大統領とゴルバチョフが深い信頼関係にあったなどという話はありません。
難しい異文化理解も重要ですが、成功の鍵を握るのは、相手の目的は何かということを、隠された部分も含め、正確に理解することです。アメリカが中国の目的を知るのに70年も掛かったわけですから、異文化を含め、相手の目標を理解することは大変です。グローバルビジネスは成功すればリスクを回避し、大きな発展がありますが、異文化は手ごわいと認識すべきでしょう。
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