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 フランスでは今、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が同国東部のベルフォールでタービンなどを製造する工場の1,044人の人員削減が、連日、メディアで取り上げられています。地元住民の多くを雇用するGEの大規模な人員削減は、同市の衰退にも繋がりかねず、市長も悲鳴をあげています。

 それよりも、今回のGEの人員削減方針が欧州議会選挙直後に発表されたことで、求心力を失いつつあるマクロン政権への不満と繋がっていることです。つまり、グローバル化の中で国内に進出した外国資本、特に人員調整が容易なアメリカの企業が、経営的理由で雇用を不安定化させる現象を「受け入れがたい」と思うフランス人は少なくないことです。

 GEは現在、フランスを欧州の主要拠点としており、再生エネルギーの洋上風力発電を含む5つのグローバル部門の本部が置かれ、16,000人を雇用しており、ベルフォールでは約4,300人が働いています。

 同社は1999年にフランスに本拠地を置く重電や鉄道車両の複合企業、アルストムからベルフォール部門を買収し、2015年にはアルストム社から化石燃料のエネルギー部門を買収し、ベルフォールで稼働させています。ただ、化石燃料需要の落ち込み、急速に変化するエネルギー市場で受注が減少し、ベルフォールは苦戦を強いられていたのは事実です。

 GE側は、今月28日の電子メールで「ガス発電事業とその関連事業で人員削減を行うことで、持続可能な競争力を取り戻す」計画を組合役員に提示し、詳細としては、ベルフォールの社員の4分の1に相当するガス発電で7922人、サポート部門で252人を削減するとしています。

 苦戦が続くベルフォール工場の効率化のための人員削減は、当然ながら労組の強い反発を招いていますが、地元経済にも悪影響があるため、市長は雇用を守るよう政府に強く要求し、地元議員もルメール経済・財務相と協議を始めています。

 ルメール経済相は今月に入り、GE側に国内の生産施設を閉鎖しないよう要求しており、さらに政府として、航空産業や原発施設の廃炉、水素関連の事業に対して資金援助を行う考えを国民議会で示していましたが、どうやら人削減は避けられないようです。

 一般的に個性を重んじるイメージの強いフランス人ですが、その一方で安定雇用へのこだわりは非常に強いのも事実です。日産自動車とアライアンスを組むフランスの自動車メーカー、ルノーが経営統合を迫っていますが、ルノーの筆頭株主のフランス政府にとっては、1にも2にも安定雇用環境の確保が最重要課題です。

 フランス人が安定雇用に異常なまでにこだわるのは、いくつか理由があります。一つはエリート養成校を出たカードルと呼ばれる管理職と、一般職員は明確に分けられ、カードルは自分の実力で、より良い待遇を求めて転職も普通に行われており、さほど長期安定雇用が重視されていません。一方、強力な学歴社会でカードルになれない一般従業員は、安定雇用を最重視する傾向があります。

 無論、カードルたちも豊富な選択肢があるほどいい訳ですから、グローバル化の進展で世界経済の影響が企業を直撃する状況の中で、優良企業も事業拠点を海外に移転させたりで選択肢が狭まるのは受け入れがたいことです。

 もう一つは、長年手厚い社会保障の国だったために、社会保障制度と雇用制度は表裏一体の関係にあり、年金を含め、雇用の不安定化は生涯設計に深刻なダメージを与えます。手厚い失業保険があったとしても、働いていない状況はダメージです。

 それに働くことを人生の中心に考えない多くのフランス人にとって、個性的生き方は週末や長期ヴァカンスで行うもので、仕事はやり甲斐よりも安定している方がいいと考える氷魚が少なくありません。そのため、終身雇用の公務員になりたがるフランス人も多いわけです。

 ホフステッドの国民性指標でも、フランス人は日本人同様、不確かな状況に不安やストレスを強く感じるとされています。雇用の不安定化は、彼らにとってはストレスです。

 マクロン大統領をフランス国民が選んだ最大の理由は、高い失業率の改善です。ビジネス経験を持つ優秀なマクロン氏なら、役にも経たない右や左のイデオロギーにこだわらず、経済問題を解決してくれるのではという期待感があったからです。

 安定志向のフランス人は、ギャンブル性の高いアメリカ型の資本主義を嫌っています。それが極右票を伸ばす理由にもなっています。実際、5年任期のマクロン政権は2年が経ち、今月、仏国立統計経済研究所(INSEE)が発表した2019年第一四半期(1月〜3月)の失業率は8.7%と10年ぶりの低水準となりました。

 公約の7%の実現は任期中に達成できないはいわれていますが、GEの大型人員削減を見て、国民は再び不安を感じ、マクロン政権への不信感が高まっている格好です。

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