米ウォールストリートジャーナルは最近「トランプ氏の関税の脅し、投資家には好影響も」という記事を掲載しました。最初に「ドナルド・トランプ米大統領の通商政策は、多くのエコノミストの批判を浴びているが、良い点もある」とし、トランプ外交が引き起こす不透明感ゆえに、投資家は過剰な投資意欲を持てないことが、いい効果を生んでいるという内容です。
つまり、将来性を見込んだクレイジーな加熱投資意欲は多くの場合、行き過ぎたブームを引き起こし、放置すれば悲惨な結末を招く場合が多いが、トランプが打ち出す予想不能で慣行破りの政策ゆえに投資家たちは、浮き出し立った投資を行わず、それが持続可能な経済活動をもたらしているという見方です。
これは皮肉な見方ともいえますが、説得力はあるといえます。トランプ氏が高い見識で全て分かった上で常識破りの政策を打ち出しているとは思えませんが、彼を支える福音派の信仰者たちは、強い信仰を持つトランプ氏には人知を超えた神の知恵が働いているという見方もあります。
今月、ノルマンディー上陸作戦75周年の記念式典で、フランスのマクロン氏はトランプ氏を目の前にして、自国第一主義ではなく、多国間主義を尊重すべきという持論を演説の中で述べました。この二人は同じ時期に似た背景を持つ国家指導者としてスタートした特別な関係にあります。
トランプ氏は政治経験ゼロの成功した老練なビジネスマン、マクロン氏は金融出身で大臣経験はあっても、一度も国政選挙を経ず、大統領になった人物です。親子ほどの年齢差ですが、トランプ氏は批判を浴びながらも支持率は安定し、アメリカ経済は順調なのに対して、マクロン氏は黄色いベスト運動で吊るし上げられ、支持率も30%を切った状態です。
いつもの説教スタイルで超大国の高齢大統領に語り掛けるマクロン氏ですが、勝敗は明らかで説得力はありません。マクロン氏のいう絵にかいた餅のような多国間主義の理想では世界の問題を解決できないことを、世界中の人々は見せられています。
中国やメキシコをターゲットに関税で脅すやり方は、通商政策としては専門家でなくとも眉をひそめるものです。たとえばアメリカ経済も中国に大きく依存しているので、関税をあがればアメリカ経済にもダメージを受け、メキシコから輸入する製品に高い関税をかければ、それだけ高い価格でアメリカ人は製品を買わされることになります。
しかし、そういった経済原理は、今ある現実ではそうであっても、その現実が根底から変われば、話は別です。プレッシャーが掛かる中国から東南アジアに逃げ出す外資系企業は増えていますが、結果としては東南アジア経済に恩恵をもたらしています。
そこで思い出すのはソニーの創業者の一人、故盛田昭夫氏がいった「市場は自ら作るもの」という考えです。今ある市場動向を分析してニーズにあった製品を投入するのではなく、自分たちが考える新しいコンセプトの製品が新たな市場を作り出すという考えです。
今は、アメリカを中心に成功モデルのほとんどが、その考え方に立脚しています。高度な知識を持つエコノミストは、起きた事象の分析や解説は得意ですが、これから起きることを予想するのは苦手といわれています。その意味でトランプ氏の手法を、これまでの法則や常識から読み込もうとすると、非常に愚かに見えるので、専門家たちはトランプ氏を馬鹿にします。
本当に彼らがいうように恐ろしいほど無知で愚かだったら、とっくの昔に国も世界も大混乱に陥れ、民主主義の高度に発達したアメリカでは、任期を待たずに失脚させられているはずです。ところが、権威ある専門家やメディアは、悪い事態を何度も警告しながらも、その予想は外れています。
つまり、これまでの常識では判断できないリーダーということです。その本質はポンペオ米国務長官が解説しているように「東西冷戦終結後にできた世界の枠組みを、一度完全リセットする」という試みです。夢見心地の理想主義のグローバリズムの陰で、中国やロシア、北朝鮮が世界を欺きながら密かに覇権を狙っている状況を根底から変えたいという強い意志です。
うがった見方をする人は、自分の偉大さを誇示するために、これまで他の人が築いたものを徹底して壊すということだけに集中していると批判する人もいるでしょう。しかし、これまで築いたものが本当に正しく、偉大なものなのかといわれれば、けっしてそうともいえません。しかし、世の中にある前提を疑うことなく、その中でうまく出世することを考える人間には前提を壊す勇気はありません。
それにトランプ氏を含むアメリカ人は、歴史のない分、大国としてのプライドはあっても、肩書やステイタスにこだわる中国の歪んだ面子はありません。結果が全てなので結果に対しては謙虚に受け入れるのもアメリカ人です。トランプ氏は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との最初の会談で「自分の判断が1年後には間違っていることも考えられる。でも挑戦してみたい」と語りました。
その前提をゼロにして取り組むチャレンジ精神は、歴史の古い国から見れば、ハイリスクの冒険にしか見えないかもしれません。しかし、現実そのものを変えようという強靭な意思は評価されるべきものだと思います。
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