
日本のアニメや漫画が世界的に認められる一方、フランスやベルギーには、バンド・デシネと呼ばれる漫画の伝統があります。ハードカバーの装丁の『タンタン』シリーズなどは大人にも楽しまれています。同時に、子供の時から魅力溢れる童画が満載された絵本に親しむ習慣もあり、ヨーロッパの家庭には絵本をプレゼントする習慣もあります。
フランスの現代人気児童文学作家で、イラストレーターのアントゥーン・クリングスの創作世界を紹介する「にわの小さななかまたち」展(9月8日まで)が、フランス・パリの装飾芸術美術館で開催されています。同美術館は大量生産される装飾品などとともに童画の蒐集も行っています。
今回は、同美術館の所蔵作品や作家個人のコレクションを中心に、日本でも日本語で出版されている『にわの小さななかまたち』シリーズを中心に500点以上の絵画、ドローイング、版画などがに集められ、クリングス・ワールドが紹介されています。作品は大人にも見ごたえのあるものです。
展覧会は、絵本のために制作された絵だけでなく、オブジェや版画、デッサンなどを5つの章で構成され、特に代表作『にわの小さななかまたち』で作家が着想を得た自然や植物、動物のさまざまな表現に注目しています。さらに、ファーブルやラ・フォンテーヌ、ベアトリクス・ポター、グランヴィルの作品も展示され、世代を超えて多くの来場者を集めています。
フランスは7月、8月のヴァカンス期間、学校も2か月間の休暇に入り、子供から大人まで楽しめるさまざまな企画展が開催されています。クリングスのみならず、ファーブルなど、自然観察の中からイメージを膨らませ、物語性を与えてくれる絵本は不思議な魔法の世界に人々を引き込んでくれます。
「レオレオ」アントゥーン・クリングス, 2014 ⒸGallimard Jeunesse / Giboulees
フランス北部出身のクリングスはベルギー人の父、フランス人の母のもとに1962年に生まれた現役の絵本作家です。ヨーロッパで最も手先が器用といわれるベルギー人の血が入っているところも興味深いといえます。幼い頃から庭と自然に親しみ、テキスタイルデザイナーとしてのキャリアを積んだ経歴の持ち主です。
最初は子供向けの本を制作しながら、イラストとドローイングに専念し、印象派、フォービスム、ドイツ表現主義など、さまざまな芸術様式から影響を受けたといいますが、その痕跡はしっかり残っており、確かなデッサン力と手を抜かない描写で、絵画作品としての魅力も放っています。
イソップの寓話からアメリカの絵本作家モーリス・センダックのイラストまで、児童文学における動物の表現にインスピレーションを得て、動物や虫は擬人化されています。これは日本にも通じるものです。彼の本は20以上の言語に翻訳され、世界中で愛されています。
勉強熱心な彼は動物を描くにしろ、植物を描くにせよ、自然科学的アプローチに裏打ちされたしっかりとしたものが背景にあり、その観察力が作品に深みを与えています。
展覧会の後半は、何世紀にも渡ってインスピレーション、休息、瞑想の場としてフランス風の庭園を巡りながら、クリングスの世界を辿ることができます。展覧会全体がクリングスの絵本に迷い込んだような錯覚を覚えように構成され、世代を超えて楽しむことができます。
絵が単純化され、平面的な日本の童画は、浮世絵などの日本画も受けていますが、クリングスの絵は奥行きのある西洋絵画の伝統に沿ったものです。どちらが子供の想像力を掻き立てるかは議論の余地もありますが、実は宮崎駿のアニメは絵がしっかりしていることが欧米で評価されている側面もあります。
日本で出版されているクリングス作品は、日本の子供たちが楽しめる単純化された絵の掲載された絵本が中心ですが、本展はクリングス作品の絵画的価値も知ることもできる展覧会にもなっています。
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