国益最優先のアメリカのトランプ政権は、環太平洋パートナーシップ協定経済協定(TPP)から脱退するなどして、2国間交渉で自由貿易協定(FTA)を結び直す方向に動いてきました。これは同政権が目指す、東西冷戦以降に構築されつつあったグローバルフレームワークの漸弱性や忍び寄る中国の脅威に対して完全リセットに挑む一貫ともいえるものです。
自由市場主義を巧みに利用しながら、人、物、技術、情報を自国に集中させ、世界支配を狙う中国の狙いが明確になる中、自国産業を守るためにアメリカのような何でも2国間交渉で解決しようとする手法だけでは、限界もあるのが、今のグローバル化し、複雑化した世界といえます。
一方、日本はアメリカのような経済力、軍事力を持たず、戦後、70年経っても外交で腰が引けている一方で、得意とする「連携」「協力」「協調」という意味で、先進的な動きを見せています。それは、一つはアメリカがTPPを離脱した後、11か国で協定を取りまとめることを成功させ、2018年3月に署名に至ったことでした。
もう一つは、妥結に至るまでに5年近くの歳月を要した日本と欧州連合(EU)間の経済連携協定(EPA)で、今年2月に発効しました。これは安倍政権の特筆すべき実績といわざるを得ないもので、経済大国としてリーダーシップを発揮した成果でした。
TTPはアメリカの離脱の衝撃でとん挫の可能性もありましたが、日本のリーダーシップでまとめることができました。EUとのEPAでは、実は厳しい交渉とは別にEUにとって日本に関する見方の変化があったことは見逃せません。それは遅まきながら、EUも中国の脅威に気づいたことです。
FTAは特定の国や地域間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減あるいは撤廃するのが目的ですが、EPAは締約国間の貿易の自由化だけでなく,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での踏み込んだ協力の要素を含んでいます。幅広い経済関係の強化という意味ではFTAの進化型ともいえるものです。
TTP、EPAは、国家間や地域間の対立が激化したり、不安定化すれば、大きなリスクを抱えることになり、ブレグジットのような混乱に陥る危険性もあります。その意味では性善説を信じる日本ならではの得意分野といえるかもしれません。
しかし、裏を返せば経済関係の深化をもたらすTTPやEPAは、国家や地域間の安定に寄与する効果もあり、リスクをとっても推進する価値があるというのが日本の判断なのでしょう。いずれにせよ、日本人が自覚する以上に世界に定着している日本の経済大国としての信頼性は、経済協定では存在感を示しています。
では、次の一歩は何かといえば、無論、TTPやEPAの進捗管理を行い、改善しながら、実効性を高めていく努力も必要ですが、日本は戦後、腰が引けていた政治力を発揮することだと私は見ています。そういうと多くの日本の識者は「やめたほうがいい」というかもしれませんが、今後、米中関係の緊張が高まり、経済戦争の激化が予想される中、日本の政治的立ち位置が問われるのは必至です。
私は、このブログで触れましたが、冷戦後の1990年代からの欧州要人への連続インタビューから導きだされた結論は、やはり政治力の絶対的必要性です。よく冷戦終結でイデオロギーの時代は終わり、経済中心の時代に入ったといわれますが、政治、外交力の重要性は増すばかりです。
日頃、反トランプの論陣を張るリベラルメディアの米ニューヨークタイムスが先月16日付で、中国との競争にアメリカが打ち勝つには同盟国である日本とEUとの連携が不可欠というバイデン元米国副大統領の補佐官だったジュリアンヌ・スミスの論説を掲載しました。無論、トランプ氏のアプローチとは異なるものですが、私も日米欧が世界のフレームワークづくりでカギを握ると見ています。
私がヨーロッパの要人とのインタビューで「政治的関係がなければ国家や地域間の関係は深まらない」という認識は、当時の日本ではあまり耳にしないものでした。冷戦時代にも政治的対立にコミットせず、経済に集中してきた日本は、経済関係の深化で関係は深まると勘違いするようになっていたのかもしれません。
それが八方美人的な商人国家のイメージを作り上げたのでしょうが、グローバル化が進み、世界が不安定化する時、最終的には政治力が物をいうのも確かです。その意味でTTPやEUとのEPA締結の次の段階は、対中政策、対ロ政策、対中東政策で、日本が米欧と政治的連携を強めることが重要だと思います。
それは経済協定とは別のレベルで覚悟が必要な話です。今の60代以上の日本人は、腰の引けた外交でお茶を濁すことで、波風立てずに商売だけしていればいいという認識なのでしょうが、本当に国際貢献したいのであれば、頭を切り替える必要があります。
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