
タイで現地採用され、10年以上日系企業で働くAさんは私に、日本から送り込まれる経験豊かな上司が、いつも原則論を振りかざすのに辟易しているという話をしてくれました。「彼らは問題が発生すると、必ずとタイでは通用しない日本的原則論を持ち出して、そこに無理やりタイ人を当てはめるようとするんですが、うまくいった試しはありません」とAさんはいうのです。
原則論とは、その上司が日本で成果を出していた経験に基づくもので、それなりに確立されたものです。グローバルビジネスの現場では、文化の違いからくるコミュニケーションギャップなどから、仕事が滞ることが多くあります。典型的なのは日本の政府開発援助(ODA)などで日系建設会社が請け負った病院やインフラ工事の納期が極端に遅れることです。
そのため、日本の大手ゼネコンの多くは利益の上がらないODAから手を引いているほどです。しかし、中身をみると、多くの場合は現地企業との共同事業なので、現地企業との協業がうまくいかず、現地での資材調達などでも度々、問題が発生し、全体のマネジメントがうまくいっていないのが原因というケースが多いのが現状です。
日本から送られた上司の中には、原則論ばかりを強調し、問題解決できないままに現場は動かなくなり、時間ばかりが過ぎ去っていくケースは私の経験上も世界中で散見されます。なぜ、原則論が機能しないかといえば、それは日本社会の中で日本人にだけ通じる特殊性が含まれているからです。
無論、日本は製造業で、世界中が見習うような素晴らしいシステムを持っています。しかし、そこで働く人間は日本人が前提です。ルールを守ることを小さい時から教育されている日本人には原則的ルールを遵守するのは当たり前のことですが、ルールが先にあるわけではないアジアや中南米、アフリカでは、ルール以前の問題があります。
そういうと先進国ではルールが優先されていると思われがちですが、ルールそのものの解釈は様々です。たとえばドイツ人はルールが大好きなので、歩行者も車が一台も来ていなくても赤信号で渡る人はいませんが、フランス人は平気で渡ります。彼らの解釈では信号は人間の判断を助ける程度のもので、ルールの目的からすれば、危険性がない時には赤信号を守る必要ないということになります。
さらに、進捗状況の把握で報連相を導入したら、不正確な嘘の報告をされて現場が混乱したなどという話をよく聞きますが、律義に上司に必要な情報を忖度して、正確な報告を上げるのは日本人くらいです。自分に不利な報告や相談はしないとか嘘の報告をするのが海外の常です。
つまり、日本で機能しているものの中には日本だからこそという前提があるわけです。その多くは素晴らしいシステムであったとしても、前提の違う国では機能しません。特に建設業のように何層も下請けが存在し、そこに業界の暗黙の了解のルールが働くような職種は、グローバルビジネスでは苦戦を強いられています。
とはいえ、製造業の場合はビジネスに耐える一定の製品を、それも量産体制で作り出せなければ成功しませんし、サービス業でも質の高さは問われるところです。無論、細部に渡り職人的こだわりが強すぎると永遠に結果は出せない状態に陥る可能性があるのがグローバルな現場です。
私は、手順として日本で培った原則論の中で、異文化では適応が難しいものを、できるだけ早く発見し、その国や地域の文化に合ったシステムに改善することを推奨しています。さらに日本のシステムの中で譲れない不動の部分に関しては、ナショナルスタッフが対応できるように忍耐強く教育することです。
たとえば日本的進捗管理の報連相は、ハイコンテクスト(高い常識の共有度)の日本人同士なら、上司と部下、同僚同士の信頼関係構築が容易だし、上司を部下が支える忖度の文化もあるので導入は有効です。しかし、その前提のないナショナルスタッフに対しては、最終目標は日本的報連相の確立であっても、その前段階(日本では必要性が低い)での丁寧な人材育成が必要です。
グローバルな現場がうまくいかない多くの原因は人間関係にあり、コミュニケーションのあり方が影響を与えています。どんな素晴らしいシステムや原則を持っていたとしても、それを動かすのは人間です。そのため相手にどの程度正確に伝わっているかの確認作業は日本の10倍は必要です。
海外で成功している企業は、組織の透明性が高く、風通しがよく、ナショナルスタッフからのフィードバックに耳にを傾け、それを迅速に反映させる対応をしている企業です。同時にヴィジョンや目標達成への不動の決意を持っているリーダーが存在していることです。これは外国人材が増える日本国内でもいえることです。
ブログ内関連記事
海外進出先のマネジメントがうまくいっていないことを示す2つの典型的兆候
リーダーの人格が問われるアジア ナショナルスタッフとの距離感をどうとるべきか
世界のどこでも通じる1人1人を大切にするチームを率いるリーダーシップ
外国人材を活かし会社を進化させるには、不思議な国、日本を脱する必要がある