今や世界中で一大勢力に成長した反グローバリゼーションともいわれるポピュリズムやナショナリズムは、メディアが批判するほど危険で、とんでもないものなのでしょうか。
世界一の強大国アメリカのトランプ大統領でさえ、ポピュリズム政治家と呼ばれるわけですが、特にリベラル系の多い世界中のメディアは、ポピュリズムという言葉をネガティブに使うことがほとんどで、警戒感を持って報じられることが多いのが現状です。
5月末に行われた欧州議会選挙で、ナショナリスト政党やポピュリズム政党が伸長したことが報じられました。実際の結果は議会の決議に決定的な影響を与えるレベルではありませんでしたが、なぜか日本では大げさに報じられ、懸念の広がりを伝えています。
確かに今月3日の欧州議会で議長に選出されたイタリア出身の社会民主系のデイビッド・サッソリ議員は、ポピュリズムに欧州が傾かないよう戦うと演説しましたが、ポピュリズムは特に中道左派系政治勢力が目の敵にしていることも原因しています。
英国のBBCは、トランプ大統領が大嫌いです。左翼系のフランスのルモンド紙ならともかく、あの客観報道で知られるBBCが、気でも狂ったようにトランプ政権に対するネガティブ報道を続けています。そのBBCを模範とする日本のNHKも、なぜBBCがトランプを嫌うかの根拠も曖昧なまま同じ論調で報じています。
一般的にメディアは、中道左派のスタンスが売れるといわれています。なぜなら権力の番人という使命があるからです。権力者におもねることのないスタンスで、どこに軸足を置くかという点で、権力の横暴を許さない姿勢を維持するために反権力のリベラル思想が採用される例が多いからです。
当然、伝統的価値観に寄り添う保守、権力者、大企業に厳しい姿勢を取るリベラルメディアは、伝統や既存権力に支配されない新しい価値観としての社会主義的理想、人道主義を根幹に置くケースが多く、ポピュリズムやナショナリズムには非常に否定的です。
それにポピュリズムやナショナリズムは、国民感情によって動くため、理性主義のリベラル派には軽蔑の対象にもなっています。しかし、民主主義の基本が主権在民である以上、国民の感情を反映するという意味では、必ずしも無視できるものではありません。
実際、ビジネスの世界は現実主義なので、左派系、リベラル系のメディアの論調は参考になりません。なぜなら、彼らは現実よりも現実離れした理想に軸足を置いているからです。通常、世界の経済メディアは保守的で、米ウォールストリートジャーナルも英フィネンシャルタイムスも保守系です。
何を間違ったのか、日本には経済メディアがアメリカのリベラルメディアと手を組んでいるケースもあり、売るための戦略かもしれませんが、頭を傾げます。無論、何の見識もない軽薄な保守系ジャーナリズムは問題ですが、実は保守系の方が思想性が乏しいために、立ち位置が難しいのも事実です。
問題視されている欧州のポピュリズムですが、この10年で彼らの戦略は大きく変わっています。1980年代にフランスのルペン氏が始めた極右・国民戦線は、当初は反移民、反共が旗印でした。その反共ぶりは、私がルペン氏と食事をした時にも非常に明確でした。食事中にも反共、反ソ連のジョークが飛び出すほどでした。
ところが冷戦終結で敵を失い、反移民に関しては数年前に大量の移民・難民が欧州に押し寄せた時がピークでしたが、今は大きな争点になっていません。政権政党をめざす国民戦線(現国民連合)は、娘のルペン氏の時代に入り、貧困層への生活支援など福祉政策の充実を前面に出し、従来の左派系支持層の票を奪っています。
理由は、もともと反グローバル化のナショナリスト政党は、格差拡大をグローバル化のせいにしてるため、生活者重視も彼らの政治信条からすれば整合性があるからです。移民排撃だけでは限界があり
、ナチズムのレッテルを張られれば、政権政党になれる可能性もないため、路線変更したといえます。
つまり、もともと日米の経済攻勢に対抗するため、欧州諸国が結束して存在感を示す目的で深化拡大したEUですが、そこで生まれたポピュリズムも中国が台頭する中、トランプ政権の登場で、グローバル化が足踏みし、国益重視、国民生活重視の内向きに傾き出していることが影響しているわけです。
これはポピュリズム政党に関わらず、既存の中道右派や中道左派、極左政党でも有権者の支持を集めようとすれば、似たような政策を打ち出すしかない状況です。つまり、全体としてEUが掲げてきた高邁な理想主義は大きな壁にぶつかっているといえます。
当然、緊縮財政は批判され、財政の健全化は遠のき、下手をすればギリシャ化する可能性もありうるという話です。その意味では経済政策は重要さを増す一方で、経済不調打開に中国の港湾インフラ開発に巨額を投資するといった甘い誘いに乗るイタリアのような国も出てくるわけです。
第二次世界大戦で疲弊し、東西に分断された欧州が、果たして国家を超えた理想主義を、どこまで追及し続けられるのかが問われているといえそうです。
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