日本人の多くは、アメリカのトランプ大統領が日米安保条約について「不平等発言」したことや、ホルムズ海峡の石油タンカー防衛を「有志連合で行うべき」としたことで、「おいおい、アメリカは今まで通り、日本を守ってくれないのか」と不安に思っているはずです。
その背景には「アメリカは日本が憲法上、海外での軍事行動は一切行わないという原則を理解してくれているはず」という認識があるはずです。戦後、アメリカやアジアを脅威に晒さらした日本を封じ込めることが時代の要請だった時代、アメリカも日本周辺諸国も日本の軍備増強は望まなかったのは確かでした。
戦後の日本外交は、アメリカへの忖度、アジアへの気遣いに追われ、アメリカが日本の頭ごなしに中国に接近すると、日本軽視を心配し、米朝首脳会談が進むと日本は蚊帳の外かと心配し、これまで特別な優遇支援を繰り返してきた隣国韓国の反日姿勢に怒りを覚えています。
一方、英国もアメリカ建国に深く関わって以来「特別な関係」を維持してきた立場で、イラク攻撃では、当時のブレア英首相は「アメリカの外務大臣」などと呼ばれ、大量破壊兵器の存在の確認もないまま、一心同体状態で参戦しました。その特別な関係があるからこそ、英国はブレグジットに自信を持っているわけです。
ところが、トランプ政権の登場で疑うことのなかった「特別な関係」への不安が広がっています。最近では駐米英国大使がトランプ氏を「無能」「適任でない」と極端に馬鹿にする評価を本国に送り続けていたことで、両国関係にはひびが入っています。英国のアメリカへの上から目線が露呈し、一般のアメリカ国民も英国への心証を害しています。
この英国大使の間違いは、他国に対する基本的姿勢を大きく逸脱したものです。通常、自国の政権に対して自国民がどんな悪口や批判をすることも許されますが、他国民は同じことをやってはいけないのがルールです。なぜなら、誰でも愛国心はあるので、他国民からは言われたくないからです。グローバルビジネスの基本中の基本の考え方です。
英国大使の本国への報告は、長年、世界を上から目線で見てきた大英帝国時代からの悪しき慣習によるものと思われます。反トランプの英BBCは、それでも英国大使を擁護しており、日本のNHKもBBCの論調に追随しているのは嘆かわしいことです。日本だって、駐日英国大使が本国にどんな報告をしているか分かったものでありません。
とはいえ、英国はアメリカと特別な関係維持にはいつも必死です。英国外交では欧州連合(EU)との関係以上に重視されている最重要事項です。隣国よりもアメリカ重視は日本とそっくりです。超大国アメリカは太平洋を隔てた日本、大西洋を隔てた古い友人、英国と特別な関係を築いてきたことで、アジアと欧州の足掛かりとしてきたのは事実です。
日本も英国も戦後はアメリカからの恩恵で生きてきた要素が強く、今も世界を席巻するアメリカ初のITビジネスモデルに追随しています。無論、英国のようなキリスト教という精神的価値観をアメリカと共有していない日本は、アメリカ文化は今でも、かなりの異文化であることは確かです。
しかし、駐日本大使が英国大使のように上から目線でアメリカの政権を見て本国に報告しているとは思えません。ただ残念のは、今でも英国外交を日本がお手本にしていることです。当然、その伝統的外交からすれば、トランプ氏には非常に批判的なはずです。安倍政権がトランプ寄りなので仕方なくついていっている状態なのでしょう。
問題はトランプ氏が繰り出す外交政策,通商政策、防衛政策が従来の日米、英米の特別な関係を根底からリセットしようとしていることです。
その本質を見ずに、たとえば石油タンカーなどの自由な航行確保について、アメリカは負担の大きさを嫌い、関係当事国で有志連合を作る方針を打ち出しているのに対して、日本メディアが「対立するイランに対して、アメリカは仲間が多いところ見せたいだけ」と報じているのは非常に不適切といわざるを得ません。
これでは世界の変化を見誤る可能性が非常に高いといえます。アメリカが一方的にリセットしたい様々な取り決めや条約、ルールには、同盟国の甘えの構造を断ち切る狙いもあるのは確かです。たとえば、ペルシャ湾岸諸国で採れる石油に依存しないアメリカが、石油タンカー防衛を担い続ける不合理を
理解すべきです。
日本が隣国から攻撃を受ける可能性が極度に高まっても、日本は先制攻撃ができないために、アメリカに頼り、アメリカ軍の参戦の結果、アメリカ軍に犠牲者が出る状況に対して、アメリカ権益を攻撃されても日本は何もしないのは不合理というトランプ氏の主張も合理性はあるはずです。
多分、日本人の大半は「戦争」という2文字を聞いただけで、強いアレルギー反応を示し、議論すらしたくないのが現実だと思いますが、アメリカとの特別な関係も変化しているし、世界も大きく変化しているということです。つまり、議論は避けられない状況にあるということです。その理解がないと、ますます日本は世界の現実から遠ざかっていくことが懸念されます。
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