Donald_J._Trump_and__Boris_Johnson

 現在、世界経済の不透明感を高めている要因の一つが英国の欧州連合(EU)離脱問題です。特に合意なき離脱になった場合の混乱は英国とEUだけでなく世界に悪影響を与えそうです。英議会下院は18日、合意なき離脱の強行阻止に向けた提案を賛成多数で可決し、多くの議員が強硬離脱は英国の利益にならないとの認識を示しました。

 次期首相選出が秒読みに入った英国ですが、離脱強硬派のジョンソン前外相が選ばれる可能性は極めて高いと見られています。どこかでトランプ氏と似ているといわれるジョンソン氏こそ、2016年に国民投票で離脱のシナリオを練り上げた人物です。

 英国のトランプといわれる大胆な発言や行動で知られ、最近では強硬離脱を支持するトランプ氏が、ジョンソン氏を支持していることにまんざらでもない態度です。

 EU側からみれば、変えるつもりのないメイ首相と決めた離脱合意案に対して、ジョンソン氏が何をいってくるのか戦々恐々としているところですが、EUは新体制が始まる11月1日以前に明確な方向性を示してほしいところです。英国、EU双方の指導部が一新されることで新たな道が開かれるかもしれないという期待感は、今のところ大きいともいえません。

 しかし、仮にジョンソン氏が首相になっても、彼の立ち位置には微妙なものがあります。ジョンソン氏はアメリカ大統領選でトランプ氏が選ばれる以前はトランプ氏を「無知な男」と蔑む発言をしていて、ロンドン市長時代はトランプ氏がロンドンに足を踏み入れることを警告するほど嫌っていました。

 ところが2016年、国民投票後に発足したメイ政権で外相に就任して2年間、トランプ大統領が欧州各国に対し北大西洋条約機構(NATO)への防衛費増額を求めたのに、仏独など多くの欧州諸国が反発する中、真っ先に米国の立場に理解を示したのはジョンソン氏でした。

 ロンドン市長時代のトランプ軽蔑発言から一転したわけですが、政治家の変節発言は日常茶飯事です。トランプ氏がワシントンの政治エリートの悪習を一掃するといって当選したことと、ブリュッセルへの権力集中を批判してEU離脱を牽引したジョンソン氏は、共に反エスタブリッシュメント(既得権層)という点で共通項があるのでしょう。

 トランプ大統領就任以降、ジョンソン氏はトランプ氏に急接近し、イラン核合意での意見の隔たりを別にすれば、ブレグジットを巡り、トランプ氏とジョンソン氏の立場は共鳴しているといえます。特にトランプ氏が「メイ首相よりジョンソン氏の方が離脱を確実にできる」と発言していることは、心強い見方を得たことになります。

 つまり、EU離脱がもたらすダメージをアメリカとの緊密な経済関係で補えるという大きなメリットがあるからです。あれだけ嫌ったトランプ氏を今年6月に国賓として英国が迎えた理由は、ブレグジットを念頭にアメリカとの特別な関係を無視できないからです。

 トランプ氏訪英を前に、ガーディアン紙は社説で「あってはならないことを、首相としての最後の行動に選んだ。政治的な判断力の稚拙さや頑固さは、3年に及んだ首相の在任期間を通じた特徴だが、トランプ訪英中の3日間に展開される光景は最後の醜態を演出するものになるだろう」と書きました。

 つまり、アメリカとの関係は最重要である一方、英国メディアのトランプ嫌いは相当なものです。無論、それが英国世論を代表したものともいえません。私の英国人の知人たちの中にはトランプ支持者は少なくありませんが、メディアの影響も小さくはありません。

 アメリカとの関係はブレグジット後に頼みの綱として重要ですが、トランプ氏は大嫌いという英国世論を背景とするジョンソン氏の立ち位置は微妙です。トランプ氏との関係が良好になればなるほど、英国民はジョンソン氏に不快感を覚えるという構図です。

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