イラク戦争の時、フランスにいて驚いたことは、当時のシラク大統領が何度も戦争に参加しない意思表明を繰り返したことでした。当時、大量破壊兵器をイラクが所持していることを理由にイラクに軍事侵攻しようとしていたアメリカを中心とした主要国にフランスは最後まで加わりませんでした。
結果、国連安保理の常任理事国でもあるフランスの反対で、国連軍としてイラク攻撃はできなくなり、米英を中心とした有志連合を組んで攻撃しました。そのフランスの判断が正しかったかどうかは別にして、何に感心したかというと、シラク氏がほぼ毎日不参加の理由を述べ続けたことでした。
その理由は、大量破壊兵器を国連査察団の査察によっても証拠を発見できなかったことで攻撃の正当性はないというものでした。無論、背後にはフランスがイラクに持つ利権があったわけですが、重要なことは、原則論だけてはなく理路整然とした客観的説明を国際社会に対して繰り返し示し続けたことでした。
今、日韓の間でもめている徴用工問題や従軍慰安婦の問題、輸出規制厳格化について、アメリカのトランプ大統領が仲裁の意思を示しているようですが、問題なのは日本が韓国を知っているようにはアメリカは知っていないということです。
日本は明らかに国際法や国際常識に則って行動しているわけですが、それを無視する韓国に対して、ただ突き放してきた感があります。つまり、日本が信じる常識こそ韓国も従うべきという思い込みがあるということです。韓国が日韓基本条約を破るような発言や行動をした場合「その問題は解決済」と突き放す態度は、けっして得策とはいえないということです。
アジアの多くの国は西洋諸国と異なり、法を絶対視し、遵守する考えは乏しく、状況に応じて法は変えられると考えている国は韓国だけではありません。国際条約を守るのは当り前という考えは非常に薄い。ロシア、イラン、中国のような国々は、表面的には条約や国際法を守っているように見せかけて、実は裏で最新鋭の核兵器を開発してみたり、人権を著しく侵害したりしています。
政治的、経済的不安定な大陸や半島に暮らす人々は、決まりを守っていただけでは生きのびることができなかった経験から、どんな約束事も絶対視せず、都合によって無視もすれば勝手に変更することを生きる知恵と思っているほどです。
日本人は決まりは守るのが当り前と考え、そのまじめさで信頼感を勝ち取り先進国入りしたわけですが、そんな国は多いとはいえません。それに日本以外の西洋先進国は第2次世界大戦の戦勝国で今も軍事力もあるので、強気発言も通用しますが、日本はそうでないため、同じような態度をとると、特にアジアでは強い反発にあいます。
原則論だけでは通じないのが国際社会です。グローバルビジネスでも原則だけを振りかざして成功するリーダーはいません。相手が同じベースに立っていないことを理解し、まずは人間関係を構築しながら、相手に伝わるまで丁寧な説明を忍耐強く繰り返すことができた人だけが成功しています。
実は植民地時代の方がオペレーションは楽でした。なぜなら支配する側の強権に支配される側は従うしかなかったからです。満州や朝鮮半島に残る植民地時代に日本が建てた公共建造物は完成度が非常に高い。その理由は現地の人たちを完全服従させて仕事をさせたからです。
しかし、そんな時代は終わりました。だから、ODAで極端に納期が遅れ、思うように現地の人々を動かせず日本は苦労しているわけです。日本の現在の対応をみていると、基本になる人間関係なしに日本は、日本の常識、原則論を充分な説明もなく冷たく繰り返し、突き放しているように見えます。
多分、輸出規制問題では、韓国から第3国への不正輸出の件数が多いことの説明を何度も韓国側に求めたのに回答がなかった結果の通告だったのでしょうが、それより優遇措置をとったり、ホワイト国に指定した判断そのものが間違いだったのではないでしょうか。それも北朝鮮問題で韓国との関係を重視するあまり、優遇したのでしょうが、経済協力だけでは彼らの心は変えられないのだと思います。
金や技術で問題解決しようとしてきた日本の政策は結果的に韓国を甘やかしただけで、実際、韓国人の心を掴むことはできていません。つまり、残念なことは、独立後の韓国に対して性善説だけで、しかも反日教育を放置したまま莫大な支援を行ったことは、原則論を振りかざす以前のベースとなる人間関係構築の役に立っていないということです。
常識への依存度の高いハイコンテクストの日本は、自分の常識は相手に分かってもらえるという甘い期待感がありますが、それは異なったコンテクストの国には通じません。だからこそ、日頃から人間的関係を築くことを努力し、分かりやすい説明を何度でも繰り返す必要があるわけです。
韓国も日本同様ハイコンテクストの国ですが、寄って立つコンテクストは日本とは大きく異なります。だから日本が信じる原則論は通じないはずです。
心配なのは、仲裁の意思を示すトランプ大統領が、韓国に対する日本の正当性を理解してくれていると期待することです。そんなことはないという前提のもとで、充分過ぎる説明をトランプ政権にすることが重要です。それはメディアを通じても同じです。量的には韓国の方がそれをしているように見えます。
日米関係にはしっかりとしたベースがあるとしても、分かってくれているはずという女性的考えは棄てることです。韓国側は反日世論を長い年月をかけて形成しているし、事態を動かす国民感情という武器もあります。アメリカか韓国に味方しないと北朝鮮問題が悪化するという脅しもしてくるでしょう。
原則論や国際法だけでは戦えそうにありません。アメリカ有力紙の社説等では、日本のメディアは原則を守らない韓国に対して、単に感情的違和感を報道してしているようにしか見えません。もっと客観性のある説明を国際社会に向かって発信すべきです。
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