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 トランプ米大統領は以前から、金融とITを嫌っていたといわれます。理由はトランプ氏が得意とした不動産ビジネスに比べ、どちらも実物の物が存在しないことや、ITに関していえば、リベラル系の人間が多いことも嫌悪する原因だといわれています。つまり、その業界に集る種類の人間をトランプ氏は好きになれないという言い方もできるかもしれません。

 とはいえ、今や世界で巨額の利益を産んでいるIT業界はアメリカにとって非常に重要な存在であることは認めており、たとえばフランスがグーグルやフェイスブックなどアメリカの巨大IT企業をターゲットにしたデジタル課税を導入したことに対して、フランス経済に深刻なダメージを与えかねないフランス産ワインに100%の関税をかける対抗措置をとることをちらつかせています。

 ヨーロッパにいると、アメリカの強さは日本とは別の視点で見ることができます。それは同じ西洋人中心の社会でも、精神年齢の違いが極端だからです。すでに文明的には完成の域に達したヨーロッパ先進国は、精神的には老人です。短時間の仕事と庭いじりやDIYを楽しむ決まりきったライフスタイルのサイクルは、日本人には手の届かない豊かさです。

 山のような世界遺産を日々磨き、そこを有り難がって訪れる自国の人口より多い外国人観光客が金を落とし、紀元前から磨きをかけるワインを毎年、1,800億円分もアメリカに輸出し、香水やモード、洗練されたフランス料理という商材で世界を魅了し続けています。

 とはいえ精神的老いは確かで、次々と時代の先をゆくようなテクノロジーを産むとか、世界が嫉妬するような新しいビジネスモデルを産んでいるわけでもありません。30年前は日本の経済覇権に怯え、今では中国に脅威を感じるよりも、尻尾を振っているのがヨーロッパです。

 アメリカがもたらしたコミュニケーション革命ともいうべき新たなプラットフォームビジネスは、巨額の利益をもたらしましたわけですが、その背景にはイノベーションを繰り返す精神的若さがあります。世界中から集る若いドリーマーが競い合う環境が整っていることも重要です。

 同時にコミュニケーションツールの開発には、アメリカが世界的に見てローコンテクスト文化、つまり常識の共有度の低い社会だということも挙げられます。日本のような常識への共有度が高いハイコンテクストの文化では、以心伝心、いわずして忖度する社会なので、コミュニケーションツールは発達しにくいといえます。

 人と人を結びつける新たなコミュニケーションツールの開発は、コミュニケーションに壁のある多文化社会のアメリカだからこそ生み出したものです。歴史的にメディアが発達したのも同じ理由です。逆にいえば、人と人との結びつきが弱まれば、他の歴史のある国以上に状有できる常識がないために一体感がなくなり、国家としての運営が難しくなる側面もあります。

 つまり、そのような環境だからこそ、新たなコミュニケーションツールを生み出せたといえます。それは世界の誰れもが必要とするツールなために、恐ろしいほどの利益をもたらしているわけです。アップル OSやWindows OSも、プラットフォームビジネスですが、これが作れていないのが今の日本です。

 新たなビジネスモデルをもたらす基本は若者です。経験主義で終身雇用や年功序列の職人文化では有能な若者を活用して新しいビジネスモデルを作ることはできません。

 今はどうしているか知りませんが、30年前にフロリダのオーランドのディズニーワールドを取材した時に聞いたのは、非常に才能のある10人の若い社員に毎年1億円渡し、年に1回、新しいアイディアを出させることをやっていたことです。

 採用されるのは1つか2つで、結局、10人の中には何年もアイディアが採用されないという状態も生まれます。つまり、毎年10億円を投じるのは企業にとって大きな懸けということです。そんなリスクの高い賭けよりも地道な研究や安定した生活を求めているのが今の日本でしょう。

 一部の日本のIT系企業が、新卒採用者に1,000万円の給料を支払うケースも出ていますが、小学校の時から同じ色に染め上げ、自己主張を押さえ込み、自由を毒とする文化が変わっていない以上、若者への高額報酬が機能するかは疑問です。当然、企業は高額報酬に見合った結果を求め、耐えられないようなプレッシャーをかけ、逆効果になるかもしれません。

 日本の場合は仕事とプライベートの境がなく、会社に家族的感覚を抱くために、職場に年功序列が持ち込まれ、窮屈にしています。1個の人間として年上を敬う長幼の序は大切ですが、利益追求最優先のビジネスの場においては個人と仕事は切り離すべきです。

 人生が仕事というのも問題です。手段が目的化してしまっているわけで、プライベートの豊かさや意味のある人生の追求のための仕事と考えれば、職場の人間関係は違ってくるはずです。日本人が新たなビジネスモデルを作れなけば、外国人にチャンスは奪われるほど、事態は切迫しています。

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