先月27日、ブリュッセルで開催された「欧州連結性フォーラム」で安倍首相と欧州委員会のユンケル委員長は「日・EU間の持続可能な連結性と質の高いインフラストラクチャーに関するパートナーシップ」に署名しました。中国の推進する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に対抗する意義深いパートナーシップの立ち上げです。
ブレグジットを控えた欧州連合(EU)側は、ポピュリズム政党の台頭や自国中心主義の旋風が吹き荒れる中、加盟27カ国の結束が揺らいでおり、ドイツの景気減速で経済的にも良好とは言い難い状況です。イタリアなどは、海路の貿易要所の湾岸開発で中国の投資を受入れ、EUだけでなく、G7メンバー国として、始めて一帯一路参加国となり、アメリカの怒りを買っています。
今回調印されたパートナーシップ協定は、運輸やエネルギー、デジタル分野などを対象に欧州・アジア間のインフラ構築に取り組むことをめざしており、EUとアジアのコネクティビティー(連結性)強化に向けてEUが600億ユーロを投じて進める計画に、日本も正式に参加する形になりました。
同パートナーシップについては、個人的感慨もあります。それは東西冷戦終結後の1990年代、知日派の欧州の政財界、学会の要人への連続インタビューで、彼らが口を揃えていっていた2点を思い出すからです。一つは冷戦後の新たな世界のフレームワークづくりに欧米だけでなく日本も加わってほしいという意見でした。
二つ目は、共産主義政権下で疲弊した旧ソ連邦の東側と西側に位置する日本とEUが、旧ソ連の再開発に協力して取り組むべきだという意見でした。その時、彼らが指摘したのは、日本とEUに共通する政治的関係が存在しないことが足かせになっているという指摘でした。
しかし、あれから25年、ロシアはともかく、一党独裁の社会主義国、中国の台頭に、どう対抗するかという新たな課題に日本もEUも直面しています。アジアへのアクセスを模索するEUは、30年にわたり欧州を見てきた私の見解では、遠い中国に対しては未だに十分な知識を持たず、安易に中国の覇権戦略に乗る傾向があります。
背景には、冷戦後、イデオロギー対立の時代は終わり経済中心の時代になったという認識が定着していることがあります。むしろ、経済関係を深化させることが外交対立を回避する最も有効な手段と信じられるようになりました。さらにはアメリカのプレゼンスが下がっていることも挙げられます。
そんな中、北朝鮮は黙々と核武装の道を辿り、建国70周年の中国は着々と世界最強国をめざして経済、軍事両面から世界に脅威を与えています。ロシアの天然ガス・パイプラインはウクライナ紛争で政治利用され、ライフラインの要であるエネルギーインフラで、欧州をコントロールする方向にロシアは動いています。
つまり、経済関係は政治には無害などということはありえないということです。経済・社会・環境面で価値観を共有する国や地域でさえ、たとえば日韓関係の今を考えると膳弱です。経済利益の追求だけでは、けっして安定した世界を構築することはできず、経済投資の背後に潜む動機が問題です。
今回のパートナーシップ協定は、西バルカンや東欧、中央アジア、インド太平洋、アフリカの第三国パートナーとの連結性向上とインフラ構築に日本とEUが連携して取り組むためのものです。EUの資金600億ユーロに加え、複数の開発銀行や民間企業が提供しており、日本側も民間資金を動員する方針だといいます。
そこで浮上するのは、特に中央アジアやアフリカ、インド太平洋に面した国々に住む人々が持つ過去から引きずる感情です。大半の国々は過去にEU諸国と日本の植民地支配を受けた過去を持ち、冷戦時代は、イデオロギーで戦ったロシアや中国と西側諸国との領土争いの犠牲になりました。
今は2013年に中国の習近平政権が打ち出した「一帯一路」構想で、すでに中国は欧州と鉄道では結ばれ、ベトナムやラオスなどの交易の要所を結ぶ道路インフラや湾岸インフラで巨額の投資が行われています。デジタル分野でも、イタリアは今年、中国のファーウェイが今後3年で31億ドル(約3300億円)を投資する計画を受け入れています。
結果、中国の投資を受けた国々は債務漬けに陥るリスクを抱えており、今や「債務漬けは途上国を支配する最も有効な手段」とまでいわれています。まるで悪質な消費者金融が土地やビルを担保に返済不能な額の金を貸し、返済できない状況に陥れば、土地やビルを取り上げるのと変わらないやり口です。
つまり、途上国は帝国主義、東西冷戦に翻弄され、中国の覇権主義の餌食になる状況です。日本とEUの支援は、その彼らへの深い理解なしには成り立たず、経済支配と映ってしまえば意味がありません。つまり、彼らと共栄していくためのプロジェクトであり、対象国や地域の民主化や環境、人権に配慮した真のベネフィットをもたらす明確なヴィジョンが必要ということでしょう。
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