london-bigben-trip-tower

 ロンドンに住む友人のバーバラは公立高校の教師で、長年、労働党を支持してきた。夫は誰もが知る全寮制のボーディングスクールのラテン語の教師で、熱心な保守党支持者。でも、12月12日に実施される下院選挙では、二人とも保守党に投票すると聞いて、バーバラに心境の変化を聞いてみました。

 答えは単純でした。「英国人のほとんどは、教養が微塵も感じられないアメリカのトランプ大統領は嫌いだけで、チャレンジ精神は魅力よ。とにかく決断してやってみる。間違ったらその時に修正すればいいという決断力は政治家には必要よ。離脱に明快なメッセージを出し続けるジョンソン首相に懸けてみたい」とベテラン教師のバーバラは答えました。

 もともと英国の価値観の信奉者の夫、チャーリーはイラク戦争の時は、毎晩、妻と口論していて、彼らの家に泊まっていて、その口論を興味深く聞いていました。文化の違いに寛容であるべきという妻がイラク攻撃に反対しているのに対して「われわれは英国の信じる価値観を今こそ示すべきだ」と強く主張していました。

 イラク戦争前夜の2003年2月当時、ロンドンの住宅街では自宅の窓ガラスに「イラク戦争指示」「No war on Iraq!」と書かれたま逆の紙が貼られる光景が、あちこちで見られました。チャーリー夫婦は完全に夫が妻バーバラの尻に敷かれる夫婦でしたが、チャーリーが意見を変えることはありませんでした。

 しかし、今回は当初、ブレグジットに反対していたバーバラが秋以降、意見を変えました。彼女の弟は、フランスの大学で私の同僚だったこともあり、欧州連合(EU)派だったのですが、今後も不透明な状態を続けることは、英国にとって良くないと考えるようになったといいます。

 2017年の下院選挙で、保守党が過半数を取れないと予想したインターネット調査会社ユーガブ(YouGov)の最新の調査で、ジョンソン首相の率いる与党・保守党が絶対多数の359議席(定数650)を確保する可能性が出てきたと報じられています。過去30年超で最大の勝利を収めるとの予測です。

 最近の選挙予想は世界的には当たらない傾向があるといわれる中、ユーガブが採用するMRP方式の予想は精度が高いとされています。対象は約10万人で11月19〜26日にかけてイングランド、ウエールズ、スコットランドの選挙区ごとにモデル化して調査が行われ、最大野党・労働党は211議席と51議席も減らし、戦後最大の敗北になると予想されています。

 この予想について、バーバラに聞くと「コービン党首(労働党)が、首相になることを期待する英国人は多くないと思う」と答え、チャーリーは「今さら中道左派など何の役にも立たない。離脱は、弱者に軸足を置く大陸の社会主義的体質を嫌ってのことだから、労働党は店じまいすべきだ」と、いつもの過激発言が止まらない。

 一方、EU残留派で英国からの独立を目指すスコットランド民族党(SNP)は、予想では43議席と8議席伸ばし、同じ残留派の自由民主党は1議席しか増やせず13議席にとどまると予想、ブレグジット党は議席を確保できないとしています。ブレグジット党は離脱派の票が保守党に吸収され、存在価値を失うとの予想です。

 ただ、保守党が圧倒的過半数になるかどうかは不明で、野党との間が僅差となると、またも議会で決められない政治が続く可能性もゼロとはいえません。ただ、空気としては、離脱の方向で単純明快なメッセージが支持されていることです。楽観的な英国人たちは、ただでさえもいつも霧に包まれる鬱陶しい天候の下に住んでいるので、なんとか靄を取り払いたいというところでしょう。

 ジョンソン氏率いる保守党はマニフェストを公表し、離脱協定法案の審議をクリスマス休暇前に開始し、年明けにはブレグジットの明確な道筋をつけたい構えです。ブレグジット疲れでストレスが溜まり、国民も企業も今はひたすら暗いトンネルから抜け出したいということでえしょう。

 残留派だったバーバラでさえ「ドイツ経済が落ちている今、沈む船から脱出するのは当然よ」とまで言っています。「今は考えるよりも行動する時よ」という彼女のメッセージは、結構、英国民の正直な心境かと思います。

ブログ内関連記事
欧州経済を確実に疲弊させたブレグジットの延期に次ぐ延期 真剣勝負の外国企業も限界に達している
迫るブレグジット期限 EUにとってはストレステスト、では英国にとっては?
ジョンソン流交渉術 タイムプレッシャーでEUに離脱代替案を飲ませることはできるのか
ここまでこじれた英国のEU離脱 背景にある歩み寄れない英国とEUの経済モデルの違い