スペインで開催中の第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)で、スウェーデンのグレタ・トーゥーベリさん(16)が存在感を示しています。同じ少女でパキスタンでタリバンから銃弾を受け、九死に一生を得たマララ・ユスフザイさん(当時15歳)がいますが、彼女は女性の教育普及、人権活動家ですが、2人の違いは、自ら犠牲者なのかどうかということです。
それはともかく、世界には今、香港で若者を中心に中国中央政府に対して、一国二制度の維持を訴えるデモが半年以上続いています。若者たちが危機感を抱いて立ち上がる例では1960年代から70年代にかけての学生左翼運動が思い起こされますが、彼らが世界を大きく変えることはありませんでした。
そこで考えさせられるのは、あることに危機感を抱き、それを根本的に変えようとする時の効果的アプローチとは何かということです。これは第4次産業革命ともいわれるデジタル革命を生きる企業にとっても、ドラスティックな変革を迫れる中、変革の実効力が問われているという意味で通じるものがあります。
グレタさんのアプローチは、危機感を煽り、聞く者に良心の呵責を引き起こさせるネガティブアプローチです。無論、若者の曇りのない純粋な心を持った主張に大人が耳を傾けることは重要です。歴史上、革命が若者によって起きる例は、たとえばチュニジアのジャスミン革命では、路上で物売りする大学まで出た青年が独裁政権に抗議し焼身自殺したことが発端でした。
若者は自らを拘束する重たい現実があまりないだけに、理想とはほど遠い矛盾と不義に満ちた現実に不安や怒りを感じる正義感で行動する場合があります。それが1960年から70年代に左翼運動として爆発したわけですが、現状を変更する方法論やイデオロギーに間違いがあったということです。
たばこのパッケージに肺がんで真っ黒になった肺の中の写真をプリントしたりするのもネガティブアプローチです。それを見たら誰もが恐怖を感じ、たばこを吸わなくなるかといえば、そんなことはありません。私のヘビースモーカーの友人は「たばこをやめたら早死にする」とうそぶいて、吸い続けています。
人々の良心に訴えかけ、危機感を煽る方法は、結論からいえば、大きな効果を生むとはいえないことは、世界の第1線の心理学者が言っていることです。それは一時的共感を得られても結果を生むための大きな効果は期待できません。人によって危機感に違いがあり、共有は難しいからです。
バチカンのシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの「最後の審判」は、典型的なネガティブアプローチです。イエスの教えを守らなければ恐ろしい地獄が待っているという恐怖心を与えて信仰を強めようとしたものです。しかし、その後の世界は人々がより自由と豊かさを求め、科学的根拠を重視するようになり、単純な恐怖信仰の強要は極端にいえば逆効果だったともいえます。
これは組織が変革を必要とする時に、たとえば「国外に出てグローバル化しなければ、会社は滅ぶ」というネガティブアプローチに置きかえられますが、その危機感を組織全体で共有するのは難しいでしょう。会社が業績を改善するためにリストラで人員整理が必要という時、従業員は解雇という別の危機感に意識を奪われます。
つまり、「もし、〇〇しなければ、こんな悪い結果になる」というネガティブアプローチより、「もし、〇〇すれば、こんないい結果が得られる」というポジティブアプローチの方が、はるかに人間にとって有益で効果的ということです。そこには結果を出すための方法論も提示されるからです。
無論、まったくネガティブアプローチが必要ないということではありません。ただ危機感があてにしている良心や良識は相対的で人によって違うために、ネガティブアプローチは一定のブレーキの効果はあっても、問題解決にはならないということです。
たとえば、フランスでは、今年、スリが急増しました。背後にはルーマニアなどの東欧のロマを手先とする犯罪組織があり、最近はモロッコの犯罪組織が摘発されました。彼らを犯罪に駆り立てるのは貧困です。彼らを何回逮捕して罰を与えても貧困が解決しなければ再犯を繰り返します。
つまり、罰というネガティブアプローチだけでは、根本的な解決に繋がらないわけです。重要なことは希望をもたらす問題解決の具体的方法とともに、ポジティブにアプローチする方が危機を脱するためには、はるかに効果的ということです。無論、その前提には明確なヴィジョンが必要だし、進捗をを徹底管理することも必要です。
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