アメリカや世界の人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査するシンクタンク、米ピュー研究所の最新の調査では、アメリカ及び欧州諸国では、対中感情が悪化していると報告されています。結果は米ニュースウィーク誌などが引用し伝えています。
調査は34カ国、3万8000人以上を対象に今年5月13日から10月2日にかけて長期に行われ、中国を好ましくない国と思っている人の割合(各国の中央値)は41%、好ましい国だと考えている人の割合(同)は40%で、昨年の調査よりも対中イメージは悪化したことを紹介しています。
日々、変化しやすい国のイメージですが、特にアメリカ、カナダ、オーストラリアでは、確実に対中イメージは悪化しているとしています。これらの国は移民によって形成された多文化共生主義の国で、国家理念がはっきりしている国だという特徴があります。
中国を好ましくない国と答えた割合はアメリカで60%、カナダで67%と、それぞれ過去最高、もともと対中感情が良くない日本では85%、スウェーデンでは70%、フランスでは62%でした。隣国日本は、領土問題など安全保障問題で直接的な利害関係を抱えていますが、他の欧州諸国は違った理由といえます。逆に中国に最も好意的なのはロシアで71%がポジティブで前年比でも6ポイントも増えています。
そうしてみると2019年の世界は多極化というより、2極化が進んだといえます。ヨーロッパの場合は、私の長年の体感では、地政学的に距離があるため、中国に対する無知も手伝って、中国に対して日本よりはるかに好意的だったのが最近、アメリカの動向などを踏まえ、好ましくないイメージに転換していると考えられます。
英国はキャメロン政権時に安全保障に関わる原発施設建設で中国の莫大な投資を受け入れたり、アメリカ・日本に対抗して中国が立ち上げたアジアインフラ投資銀行(AIIB)にいち早く参加を表明し、政治と経済は別物という認識で、中国に急接近しましたが、今は警戒感の方が高まっています。
全体としては、トランプ政権が浮き彫りにしたファーウェイに象徴される中国企業と中国共産党政府の密接な関係、香港の抗議デモの長期化で見えてきた中国の姿勢は、反中感情を高めたといえるでしょう。ITコミュニケーション革命で民主主義の膳弱さが浮き彫りになる中、情報を集中と迅速な意思決定が可能な独裁国家が台頭している状況も対中感情に悪影響を与えているといえます。
最近、日本を訪問した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者で東アジア研究の権威といわれるアメリカのエズラ・ボーゲル氏(89)は、日本を含む欧米先進国は成長した中国を受け入れるべきと発言していますが、国際世論は数値的には逆の方向に動いているといえます。
ロシアはけっして中国と友好国とはいえない一方、あまりにも長い国境を抱え、最近はアメリカに対抗するという共通の目的で、ロシアが戦略的に天然ガスのパイプライン開通などで急接近し、共同軍事演習を行うなど、外交接近しています。
トランプ政権が持ち出した対中貿易戦争は、リベラル派が好きな多極化均衡論に反し、2極化を進め、第3次世界大戦の様相を呈していると指摘する人も少なくありません。ただ、東西冷戦時代とは状況は異なっており、成長するアジアや南米、アフリカ諸国の動向も2020年は気になるところです。
元はといえば、中国が改革開放で経済成長を優先する方向に舵を切り、政治は「社会主義、経済は資本主義」と使い分け、自由貿易圏に入ってきた時に、欧米諸国は「豊かになれば、国民はより自由を求め、一党独裁の社会主義体制は崩壊する」と読んでいたのが、そうならなかった誤読への後悔があると私は見ています。
今でも中国の内部崩壊に期待を託す西側諸国の人は少なくありませんが、欧米人では読めない中華思想や民族主義、ナショナリズムの方が、自由主義に勝っている状況は、2020年も変わらないことが予想されます。今まで関心も持たれていなかったウイグル族への弾圧など中国の人権弾圧の内政が、さらに明らかになる中、反中感情が軽減されるとは思えない状況です。
その意味ではリスク拡散ということで、グローバル企業は中国以外の選択肢を求め、拠点の移動は止まらない可能性も十分考えられます。また、中国から本国に引き揚げ、国内生産の比率を上げる選択をする企業も増える傾向も見えた1年でした。
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