欧州産業連盟は今月16日、中国との経済関係が新たなステージに入ったとして、中国の国家主義経済政策の改善を求める意見書を出しました。そこには欧州連合(EU)も対中ビジネスをリセットする時期が来ているとの認識も示されています。とはいえアメリカほど強気に出れない事情もあります。
日本の経団連に相当する欧州産業連盟(UNICE=ビジネスヨーロッパ)は、アメリカと中国が第1段階の経済・貿易協定に1月15日に署名したことを受ける形で翌日、中国に対して、国家主義が引き起こしている構造問題や市場の歪みをもたらす慣行の改善を求める意見書を出しました。
内容はEUが対中国政策を整理し直し、いうべきことはいって関係を深めたいというもので、中国が国家主義の経済政策を改めなければ次のステージには行けいないと釘をを刺すものでもあります。ただ、第1段階の米中貿易協議でアメリカが要求した知的財産の保護や金融市場の開放、為替操作の禁止のような具体性には乏しく、欧州らしい多少観念的アプローチともいえそうです。
中国への懸念という意味では遅きに失した感もあり、歯切れの悪い部分もありますが、日本の財界が一致して中国の根底にある政策問題に強い懸念を示すようなことをしていないことからすれば、いいのかもしれません。問題なのは中国が、社会主義モデルを強化し、ますます国家主義を強めていることです。
意見書は、中国の国家主導の経済政策がEUにもたらすシステム上の課題に対処するために、以下の4つの主要な目標を挙げています。
1、EU・中国間の公平な競争条件確保
2、市場の歪みをもたらす中国政府の影響緩和
3、EU域内の競争力強化
4、第三国の市場での公正な競争と協力確保
意見書では、中国の国家主義経済政策は中国国内のみならず、EU域内でも欧州企業の潜在的競争力を阻害しているとの認識を示し「中国の構造的問題を放置することは許されない」(マルクス・バイラーUNICE事務総長)として、中国へ改善を求め、同時にEUの対中国経済政策の再考の必要性を迫っています。
現状としては中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」のプロジェクト入札で、在中国・欧州企業が問題視している入札の不透明性があります。一方、EU域内では加盟各国で対中経済政策はバラバラで、中国との関係が長いドイツは、中国から入ってきた安価な中国メーカーのソーラーパネルの流入で、何社ものドイツメーカーが倒産や徹底に追い込まれ、この数年問題になっています。
最も昨年問題視されたのはイタリアで、昨年3月、主要7カ国(G7)メンバー国として初めて、中国の「一帯一路」への正式な支持を表明し、同国のインフラ整備事業計画で、ジェノバ西リグリアや東アドリアの港湾整備事業に中国の巨額投資を受け入れる協定に署名したことです。
EU経済の牽引役のドイツでさえ景気減速状態に陥っており、抜け出す手だてを見出していない現状があります。景気低迷からの脱出に中国資本は欠かせないというEU諸国の事情もあり、そのため不透明な投資実態を知りつつ、中国マネーに手を出し、強気発言ができない現状もあります。
EUは、中国の習近平国家主席や要人のEU訪問に手厚い接待を行い、ドイツやフランスなどの首脳の中国訪問には必ず、自国財界人を1,000人単位で引き連れていき、大型契約を結ぶことに余念がありません。今回のUNICEの意見書も、経済パートナーとしての中国とEUの関係強化は最重要課題と位置づけています。
具体的な改善要求としては、中国と外国企業間の市場アクセスの格差、戦略的セクターにおける中国国内での中国企業の資金調達の優位性、安価な土地とエネルギー優先提供、州の不公平支援、選ばれた人々への優先的支援など、多くの差別的な慣行が市場を歪めていることを問題視しています。
とはいえ、アメリカのように大規模な関税上乗せや中国政府の情報収集に加担しているとして中国IT企業を米国市場から排除するなど、相手をコーナーに追い詰めて改善を求めるような強気の政策を今後EUが取るとは思えません。中国に対するナイーブな認識が多少、米中貿易戦争を見て変わってきた程度です。
私はむしろ、日本が欧州経済界と足並みを揃え、中国の隣国としてアドバイスし、公平さを大きく欠く中国の国家主義や覇権主義に対抗する勢力を構築することが重要だと思います。そのためには日本が欧州市場にさらに積極的に投資を行うことも重要と考えられます。
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