アメリカにトランプ大統領が出現したことで、脱グローバル化時代が始まったといわれています。個人的に日本はグローバル化に積極的な対応をとってきたとは思いませんが、海外投資を促進した理由は国内市場の手詰まり感と国際競争力確保のために生産拠点を海外に動かさざるを得なかったのは事実です。
ディグローバリゼーションといわれる脱グローバル化は、ポピュリズムとナショナリズムの台頭などによる保護主義の拡大という視点で語られることが多く、どちらかといえば自由貿易にブレーキを掛けるネガティブな方向として語られていますが、グローバル化がもたらした格差拡大などさまざまな不都合に対して本格的な調整局面に入ったと私は見ています。
新型肺炎コロナウイルスの世界的拡散で頼りになるのは、今のところは国家しかないということをわれわれは目の当たりにしました。今のところ、リスクから自分を守るのは自分や地域社会、国家しかありません。コミュニケーション手段が発達し、デジタルで繋がる時代になればなるほど、さまざまなリスクが拡大しており、今のところ国家以上に頼れるものはありません。
武漢を脱出する日本人ビジネスマンたちも日本と中国の国家間の交渉なしには実現できなかったし、日本が邦人保護に強い意思を示さなければ、退避自体実現しなかったといえます。今は容易に国家の壁は超えられると考えた金融とIT系で働く人々がもたらしたグローバル化を再考する局面に入ったといえます。
しかし、脱グローバル化時代は、保護貿易主義の拡大で関税合戦に陥り、国益優先が結局は最終消費者に利益をもたらさない可能性もあり、今まで信奉してきた自由市場主義を著しく妨げるというネガティブな捉え方が優勢です。その観点からトランプ批判をする声は絶えないわけですが、トランプ政権下で経済が好調だったことを的確に説明できる人も少ないといえます。
とはいえ、脱グローバル化に企業はどう備えるべきかは、グローバル化にどう対応するかという課題と同じように重要さを増しています。たとえば製造業の場合は、A国とB国から資材や部品を調達し、B国とD国で組立を行い、D国で完成させた製品を日本や他の地域に納品するケースは今多いのが現状です。
これは関税障壁ができれば困難になります。EU経済への依存度の高い英国のブレグジットの今後の移行期間の最重要課題は通商協定です。それに共有できるプラットフォームがあることがビジネスのグローバル化の大前提です。ナショナリズムの台頭で共有が困難になる可能性もあります。
巨額の利益を生み出すグローバル企業であるIT企業は、このプラットフォームの共有で天井知らずの成長を遂げてきました。ネガティブ要因は情報の流出で今も解決していない問題です。欧州連合(EU)には、人の移動の自由を保障する国境管理を撤廃したシェンゲン協定がありますが、テロリストや犯罪者、不法移民の移動も容易になるというリスクを抱えています。
ブレグジットの理由の一つも移民問題にあるといわれています。今、世界各国は自国人材の雇用を優先する傾向にあり、移民対策強化で厳格なルール化が進み、外国人材の調達のハードルも高くなっています。グローバル化で有効性が注目される多文化の人材確保は困難になりつつあります。
資金調達面でもグローバル化で資金調達が容易だったのが、金融のプラットフォームも国際的共通ルールより国家のルールが優先され分断されるようになり、手続きは複雑化し、グローバル企業には、かなり深刻な影響を与えるリスクも高まっています。
実はEUを1月31日で正式離脱した英国の判断は、今後の脱グローバル化対応の試金石になると私は見ている。EUというプラットフォームでさまざまなことを共有してきた英国は、今後、国益を優先しながら、どうやって発展していくのかということです。
英国は歴史にない欧州の市場共有の実験に48年間も立ち会い、ついぞその核心である共通通貨ユーロは導入せず、シェンゲンにも入らず、結果的には離脱することになったわけですが、脱グローバル化時代をどう生き抜いていくのでしょうか。
英国は、世界が共有する金融センターというメリットを最大限活用しながら、製造業などは外資に開放し、自国メーカーにこだわることなく、ある意味グローバル化の先頭を走っていたといえます。未だに国が最大株主としてルノーを所有することにこだわるフランスとは対照的です。
私は脱グローバル化時代がどれだけ長く続くかは、各国政府が自国民一人一人の幸福をどこまで考慮し、真剣にその実現に取り組みかに掛かっていると考えています。浮き足立ったグローバル化に安易に戻るべきではないでしょう。
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