メディアが報じるニュースの優先順位は人命がトップといわれています。それも死者数が多くなればなるほど扱いは大きくなる。新型コロナウイルスによる肺炎の世界的感染拡大は、その意味で最優先のニュースですが、結果、人命だけでなく経済への悪影響の懸念が拡がっています。
中国がくしゃみをすれば、世界が風邪を引くといわれるほど、世界経済は中国への依存度を深めていますが、観光業もその一つ。10年前から爆買いで注目された中国人観光客に対して日本のみならず、世界で最も外国人観光客が訪れるフランスでも熱い視線が送られてきました。
日本では中国人観光客が団体旅行をする場合、日本の旅行会社が「身元保証書」を作成するため、その動向は把握しやすいといわれています。日本旅行業協会によると、中国当局が海外への団体旅行を禁止した1月27日から3月末までに訪日予定の保証書が約40万人分あり、大半がキャンセルになると見られ、そこに含まれない大型クルーズ船の団体客やビジネス客まで入れると膨大な数になるそうです。
この数年は日韓関係の悪化で、韓国人観光客も激減しましたが、中国人観光客の激減はその比ではないようです。私の故郷、九州の別府や近くの湯布院の観光業者も頭を抱えていると伝え聞きます。別府の場合はクルーズ船で韓国経由で訪れる中国人が多かったので、中国政府が自国民の韓国行きを制限した時点から減少は始まっていたそうです。
一方、フランスでも中国人の爆買いは観光収入を押し上げてきました。パリのギャルリラファイエットなど大型店舗は中国人のために高級ブランド品を揃えたフロアを特別に準備し、中国人店員が案内する徹底ぶりです。某中国企業は2015年の社員の慰安旅行で一行6,400人がパリと地中海沿岸のコート・ダジュール観光で2日ずつ滞在。2都市での出費は、宿泊費も含めて40億円を超えたそうです。
昨年だけで9,000万人以上の外国人観光客を受け入れたフランスは押しも押されぬ世界一の観光大国ですが、2015年以降頻発したイスラム過激派によるテロは人命に関わるカントリーリスクでした。当然、国内外の観光客は激減し、観光業は決定的ダメージを受けるはずでしたが被害は最小限でした。
2015年11月のパリ同時多発テロでは1夜で130人が死亡し、2016年7月には南仏ニースで大型トラックが歩道を暴走するテロが発生し、84人が亡くなりました。予想不能なテロは効果を狙って観光スポットで起きるケースが多く、エッフェル塔はこの数年、テロ予告で何度も避難を余儀なくされています。
さらに2018年暮れから1年以上続く黄色いベスト運動では、毎週土曜日にシャンゼリゼ通りなどでデモ隊が暴徒化し、有名ブティックやレストランが破壊され、昨年12月からは年金改革に抗議するストライキが1カ月以上続き、公共交通機関が止まり、ルーヴル美術館などが閉まり、観光客に影響を与えました。
普通の国なら渡航を控えるところですが、観光大国フランスは人命に脅威を与えるテロの影響もストライキの影響も最小限に抑えられています。無論、ウイルス感染とテロは違いますが、フランスの客層は非常に幅広いところが日本との違いとして挙げられます。
数週間も滞在する長期ヴァカンス客から数日滞在の団体客、個人客と幅広く、45を超える世界文化遺産や歴史遺産、自然遺産があり、ワイン、フランス料理、モード、香水と観光資源は底が厚いことも挙げられます。滞在するホテルも高級大型ホテルから高級プティホテル、フランスでしか味わえない中世に建てられたシャトーホテル、1泊3,000円程度のホテル、長期滞在型のコテージまで多種多様です。
つまり、懐が深く、客層も多様で観光大国としての年輪を感じさせます。格安のLCC便は、観光客誘致のために自治体が航空会社に資金を出し、ヨーロッパ各地からの観光客を誘致しています。全国の観光地は観光で訪れるだけでなく、最終的に一度は住んでみたい多様な町づくりに余念がありません。
日本の観光地で育った私からすれば、日本の観光ビジネスは昔とそれほど変わっていません。フランスの観光ビジネスの懐の深さ、幅の広さは、残念ながらフランス人の追求する生活の質の高さとも深く関係しており、なかなか追いつけないのが現状です。
日本では中国人を初め、東南アジアの人々が大挙して訪れた観光地から日本人観光客の姿が激減したという残念な現象も起きています。ブログでは具体的な戦略については書けませんが、東京五輪を前に観光ビジネスは大きな意識転換が必要になっていると私は考えています。
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