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    24時間稼働体制の仏アンジェのコルミ・オペン社の工場 afp.com - Loic VENANCE
 
 最近報じられたフランス西部アンジェのマスク工場がフル稼働しているニュースは非常に興味深いものでした。フランスの製造ラインが24時間稼働すること事態、久方ぶりのことですが、忙しくなった背景に考えさせられることが多いからです。

 世界に拡散する新型肺炎コロナウイルスの感染予防のための感染予防用マスクの需要が急増する中、マスクの製造を行うコルミ・オペン社(カナダのメディコム社の子会社)の工場は、24時間稼働体制で作業員を30人追加雇用しても受注に追いつけない状況が続いています。

 コルミ・オペン社のアンジェ工場は医療用、感染予防用のマスクの生産を行っており、同社によると1日に合計100万枚のマスクを生産し、アジアやフランスを含む欧州諸国に輸出しているそうです。年間1億7,000万枚以上のマスクを生産する同社は現在、なんと5億枚以上を受注し、工場長によれば、2分おきに世界中から注文メールが来ているそうです。

 平常時には、世界市場の8割のマスクは中国と台湾で生産されているのに対して、非常時の現在は両国で地元の需要に応えるため、マスクの輸出を取りやめている状態です。それでも両地域ではマスク需要に供給が追いつず、感染拡大阻止が急務な中国政府は日本や欧州、アメリカからのマスクや医療用防護服を輸入する必要性を認めています。

 当然、中国、台湾だけでなく、世界各地でマスクは必要とされており、特に医療用マスクは医療関係者にとって必須のアイテムなだけにコルミ・オペン社は世界の需要にも答える必要があり、生産能力をはるかに上回る量の注文を受けている状態です。

 実は同社親会社メディコム社の工場は武漢にもあり、手術用ガウンを製造していますが、春節後の再稼働が延期されており、他の同社の中国生産拠点では、他国に輸出する分を中国に供給するよう政府が圧力をかけ、台湾の同社のマスク製造工場も輸出は許可されていないといいます。

 現在、新型ウイルスの感染拡大を防ぐため、着用時に顔面とマスクの間に隙間を作らず、微粒子の菌やウイルスも通さないタイプのマスクの繊維にはポリプロピレンという素材が用いられ、コルミ・オペン社は原料の大部分をフランス国内で入手でき、原料の輸入なしに生産できるメリットがあるため、注文が殺到しているというわけです。

 工場は現在、1日24時間、週末も機械を稼働させ、作業者を30人増員し対応しているにも関わらず、同社によれば、日に日に注文は増えているといいます。欧米医療メーカーの多くが中国国内に生産拠点を持ち、原材料を複数の国から供給しているため、機能していないのとは対照的に、コルミ・オペンの工場は原材料入手を含め国内で生産が完結しているのが特徴です。

 国を跨いだサプライチェーン構築と、どこの国で製品を完成させるかは、グローバル企業にとって重要な問題ですが、グローバル化で世界の工場、中国なしに生産活動が成り立たない多くの製造業は、逆に今回のように中国自体がウイルスの感染拡大で致命傷を負った場合、ビジネスに深酷なダメージを受けざるを得ない現実に接しているということです。

 逆にコルミ・オペン社のアンジェ工場のように自国内で完結している企業は、このグローバルリスクとは無縁で、嬉しい悲鳴をがあげています。原材料の供給まで自国で賄えるのも大きな強みです。

 つまり、コロナウイルス拡散で脱グローバル化が加速する可能性があるということです。単なるコスト削減、効率化だけを追求したグローバル化がカントリーリスクに非常に弱いことを見せつけています人の命と直結した医療品の緊急需要に対して、グローバル生産体制が足かせになっている現実は、警告を意味しているようにも見えます。

 特に中国共産党一途独裁で明らかにリスク管理に弱い中央集権と隠蔽体質、超内向きの中国に身を任せてきたグローバル企業は、その選択を再考する大きな転換期に差し掛かっているように見えます。

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