この数十年、数の上で外国からの旅行客数でフランスは1位を保ってきました。今年は本来、外来客1億人突破の目標を達成するはずの年でしたが、新型肺炎コロナウイルス(COVID-19)の世界的拡散の影響は予想以上にフランスの観光産業にダメージを与えており、予断を許さない状況に陥っています。
実はフランス政府は昨年秋、2014年に掲げた2020年までの外来客1億人突破は困難と判断し、2年先送りし2022年までに変えました。理由は2018年11月から始まった1年以上続くマクロン政権への抗議運動やブレグジットによるポンド安、米中貿易戦争最中の中国の経済不振などでマイナス要因が多いとの判断でした。
このブログに書いた通り、フランスはこれまで幾多の試練にも動じることなく、確実に外国からの旅行客数を伸ばしてきました。2008年の世界金融危機、2015年1月にはパリの風刺週刊紙シャルリー・エブド編集部襲撃事件、同年11月には130人以上の死者を出すパリ同時多発テロが発生した。
これらのテロを受け非常事態宣言が出され、翌16年にはフランス南部最大の観光地ニースでトラックが歩道に突っ込むテロが発生し80人以上が亡くなりました。ところが、世界観光機関(UNWTO)の統計によれば、16年の外国人旅行客は8,2700万人と前年の8,452万人から2%下回っただけ世界1位で、17年には8,690万人に持ちかえし、18年は8,940万、19年には9,000万人を突破しました。
仏経済・財務省予算局は19年当初の予測9,400万人を下回ったとして、1億人目標を2年先送りしたわけですが、2024年のパリ五輪を控え、是が非でもそれ以前に1億人を突破したいところです。19年の増加鈍化は黄色いベスト運動とポンド安の影響が大きく、年末には政府の年金制改革に抗議する交通ストライキが1カ月以上続いたことも響いています。
2018年11月から続いた黄色いベスト運動は、毎週末シャンゼリゼ通りなどの観光スポットでデモ隊が暴徒化し、有名ブティックやレストランが放火、襲撃されました。東京でいえば銀座や渋谷交差点、皇居前、新宿の目抜き通りが毎週、デモ隊に占拠され、それも1年以上続く状況です。
しかし、COVIT-19の脅威は、テロや為替、ストライキ以上に深刻です。特に増加を続けてきた中国人旅行者の激減は深刻で、ルモンド紙はホテル関係者の話として、1月の中国からの予約のキャンセル率は80%、2月は100%に達したとしています。それも高級ホテルの利用率が高いため打撃は相当なものです。
昨年はフランスを訪れた中国人旅行者が240万人とされ、これまで増加の一途を辿り、彼らが使うお金も欧米人や日本人を上回っていました。欧州旅行委員会(ETC)によれば、ヨーロッパを観光で訪れる中国人の70%がフランスを訪問先にしており、ドイツの37%、イタリアの30%、英国の22%に比べ、圧倒的人気です。
今後、春以降の繁忙期に向け、ウイルス蔓延が収束しなければ、そのダメージはテロやストライキどころの話ではなくなる可能性も指摘されています。ホスピタリティーの悪さの批判され続けたフランスの観光産業は、この10年改善に取り組んできましたが、不安も拡がっています。
現在は観光情報提供のボランティアの若者が紫色のベストを着用し、観光客のケアにあたったり、14カ国語に対応する公式観光ウェブサイトを200万ユーロ投じて立ち上げました。パリ商工会議所は国別接待マニュアルを作成してホテルなどに配っています。
しかし、ウイルス拡散は想定外です。最近、中国から来ていたウイルス感染が確認されていた高齢の旅行者が死亡しました。白人フランス人以上に中国人に敵意を抱くアラブ系フランス人のタクシー運転手などが、中国人への乗車拒否を行っており、観光を取り巻く環境は悪化しています。フランスで今年はその意味で、この10年で最悪の年になるかもしれません。
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