(AP Photo/Luca Bruno)
新型コロナウイルスがイタリアで急速に拡大し、すでに322人の感染者、10人の死亡が確認される中、欧州では国境封鎖問題が浮上しています。ウイルス蔓延のリスク回避に欠かせない水際対策「まずは感染者を入れない」は、国境検問を廃止したシェンゲン協定国には難しい判断を迫られています。
「便利はリスク」という言葉が脳裏を走る内容ですが、2015年にシリアやイラクから帰国してテロを実行した欧州国籍者たちがシェンゲン協定国内を自由に移動できたことが問題になりました。国境検問は犯罪者の逃走抑止、身柄確保に貢献する手段ですが、経済効率を優先するためのシェンゲン協定は各加盟国を危険に晒す側面もあります。
今回、新型ウイルス感染はイタリア北部ロンバルディア州とヴェネト州に集中していることから、イタリア北部と国境を接するフランスのアルプ=マリティム県の危険度が高まっているとして、同県は緊急医療体制と国境管理強化を23日夜に政府に要請しました。
毎日、数万人が国境を超えていると見られている仏伊国境を封鎖するのは至難の技です。国境を超えて働く人も少なくなく、大量の物資が両国を行き来し、陸路の検問を始めれば、日常生活に大きな影響が出るだけでなく、経済のダメージも計り知れないという現実もあります。
仏保健省のジェローム・サロモン保健総局長は「私たちはシェンゲン圏にいるので、海上国境、航空交通があり、陸上国境管理を復活させることは想像できない。イタリアからスイスまたはオーストリアを経由してフランスに入るルートもあり、国境管理は困難だ」とし、「むしろ、感染した人をできるだけ早く特定し、隔離することが効果的」との考えを示しました。
欧州委員会も24日、EU内での国境管理の回復は厳しい条件を伴うとし、「シェンゲン国境法は、一時的な統制の回復を認めているが、特定の条件下で決定を下す必要がある」とヤネス・レナーシック危機管理担当委員は述べています。つまり、シェンゲン加盟国による決定は「信頼できるリスク評価と科学的証拠に基づいて、加盟国同士が連携して行う必要がある」というわけです。
これまで欧州は新型ウイルスに関しては認識が高いとはいえず、マスク着用や手洗いも奨励はされていませんでした。しかし、イタリアで21日に38歳の男性の感染が判明した後、わずか数日で感染が一気に拡がったことで、ヨーロッパ人の間で新型コロナウイルスについて「伝染病」とか「疫病」という言葉が行き交うようになり、一気に認識が変わったという印象です。
ヨーロッパでは14世紀半ばから15世紀前半にかけ、ペストが大流行し、ヨーロッパの全人口の30%〜60%に当たる2,000万から3,000万人が死亡したといわれています。特にイタリアでは人口の70%以上が死亡し、イタリアを発信源とする今回のコロナウイルス感染拡大は恐怖の歴史の記憶を呼び覚ましたようにも見えます。
欧州連合(EU)の欧州委のステラ・キリアキデス仏保健委員は、世界保健機関(WHO)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)のミッションを受け、イタリアを25日から訪問し、リスク評価と可能な対応策をイタリアと協議しています。国境封鎖はしない考えで一致したとも伝えられます。ECDCは、この調査を受け、加盟国の緊急計画を検討するとしています。
「われわれは加盟国を支援し、直面する状況にできる限りのことをする。パニックや誤報に屈してはならない」とキリアキデス氏は述べ、その緊張感を伺わせています。イタリアでは北部5州の学校が当面休校になっているほか、中国・武漢方式に習い、感染者が集中する11の自治体住民は町からの出入りが禁止され、町はゴーストタウン化しています。
フランス政府は国境管理強化策として入国者に対する検温対策を強化しており、イタリアからの便が到着する空港、国境付近の鉄道駅、バスターミナルなど検温の範囲を拡げる方針です。さらに南フランスでは感染性疾患の専門医が、ニース大学病院に昼夜を問わず待機し、感染患者を受け入れる体制が整っているとしています。
オリビエヴェラン保健相は24日「ロンバルディア州とヴェネト州から戻ってくる人々は、できるだけマスクを着用し、少なくとも14日間外出を控え、1日2回検温し、発熱や呼吸困難な場合は、すぐに救急医療救援サービス(SAMU)に電話するよう」呼び掛けています。
さらに感染に対応する病院を約3倍に増やし、政府としては感染ピーク時を想定し、たとえば遠隔医療の可能性、患者とのビデオ会議などの追加手段を提供する準備も進めていると保健相はいっています。欧州は今、新型ウイルス感染拡大に対して危機管理に本腰を入れる方向に舵を切っています。
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「便利はリスク」という言葉が脳裏を走る内容ですが、2015年にシリアやイラクから帰国してテロを実行した欧州国籍者たちがシェンゲン協定国内を自由に移動できたことが問題になりました。国境検問は犯罪者の逃走抑止、身柄確保に貢献する手段ですが、経済効率を優先するためのシェンゲン協定は各加盟国を危険に晒す側面もあります。
今回、新型ウイルス感染はイタリア北部ロンバルディア州とヴェネト州に集中していることから、イタリア北部と国境を接するフランスのアルプ=マリティム県の危険度が高まっているとして、同県は緊急医療体制と国境管理強化を23日夜に政府に要請しました。
毎日、数万人が国境を超えていると見られている仏伊国境を封鎖するのは至難の技です。国境を超えて働く人も少なくなく、大量の物資が両国を行き来し、陸路の検問を始めれば、日常生活に大きな影響が出るだけでなく、経済のダメージも計り知れないという現実もあります。
仏保健省のジェローム・サロモン保健総局長は「私たちはシェンゲン圏にいるので、海上国境、航空交通があり、陸上国境管理を復活させることは想像できない。イタリアからスイスまたはオーストリアを経由してフランスに入るルートもあり、国境管理は困難だ」とし、「むしろ、感染した人をできるだけ早く特定し、隔離することが効果的」との考えを示しました。
欧州委員会も24日、EU内での国境管理の回復は厳しい条件を伴うとし、「シェンゲン国境法は、一時的な統制の回復を認めているが、特定の条件下で決定を下す必要がある」とヤネス・レナーシック危機管理担当委員は述べています。つまり、シェンゲン加盟国による決定は「信頼できるリスク評価と科学的証拠に基づいて、加盟国同士が連携して行う必要がある」というわけです。
これまで欧州は新型ウイルスに関しては認識が高いとはいえず、マスク着用や手洗いも奨励はされていませんでした。しかし、イタリアで21日に38歳の男性の感染が判明した後、わずか数日で感染が一気に拡がったことで、ヨーロッパ人の間で新型コロナウイルスについて「伝染病」とか「疫病」という言葉が行き交うようになり、一気に認識が変わったという印象です。
ヨーロッパでは14世紀半ばから15世紀前半にかけ、ペストが大流行し、ヨーロッパの全人口の30%〜60%に当たる2,000万から3,000万人が死亡したといわれています。特にイタリアでは人口の70%以上が死亡し、イタリアを発信源とする今回のコロナウイルス感染拡大は恐怖の歴史の記憶を呼び覚ましたようにも見えます。
欧州連合(EU)の欧州委のステラ・キリアキデス仏保健委員は、世界保健機関(WHO)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)のミッションを受け、イタリアを25日から訪問し、リスク評価と可能な対応策をイタリアと協議しています。国境封鎖はしない考えで一致したとも伝えられます。ECDCは、この調査を受け、加盟国の緊急計画を検討するとしています。
「われわれは加盟国を支援し、直面する状況にできる限りのことをする。パニックや誤報に屈してはならない」とキリアキデス氏は述べ、その緊張感を伺わせています。イタリアでは北部5州の学校が当面休校になっているほか、中国・武漢方式に習い、感染者が集中する11の自治体住民は町からの出入りが禁止され、町はゴーストタウン化しています。
フランス政府は国境管理強化策として入国者に対する検温対策を強化しており、イタリアからの便が到着する空港、国境付近の鉄道駅、バスターミナルなど検温の範囲を拡げる方針です。さらに南フランスでは感染性疾患の専門医が、ニース大学病院に昼夜を問わず待機し、感染患者を受け入れる体制が整っているとしています。
オリビエヴェラン保健相は24日「ロンバルディア州とヴェネト州から戻ってくる人々は、できるだけマスクを着用し、少なくとも14日間外出を控え、1日2回検温し、発熱や呼吸困難な場合は、すぐに救急医療救援サービス(SAMU)に電話するよう」呼び掛けています。
さらに感染に対応する病院を約3倍に増やし、政府としては感染ピーク時を想定し、たとえば遠隔医療の可能性、患者とのビデオ会議などの追加手段を提供する準備も進めていると保健相はいっています。欧州は今、新型ウイルス感染拡大に対して危機管理に本腰を入れる方向に舵を切っています。
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