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  パリ・ルーヴル美術館の小学生の美術ワークショッププログラム copyright Musee Louvre 

 フランス政府は今月13日、新型コロナウイルス対策の封鎖措置を5月11日まで延長し、同時に状況を見ながらそれ以降、段階的に封鎖を解除する方針を決定しました。一方、4月10日にはルメール財務相が緊急経済対策として、すでに施行済みの450億ユーロの緊急支援プランを1,000億ユーロにかさ上げすることも表明しています。

 そこで気になるには、政府により封鎖を強いられている大小の劇場、美術館など文化活動の拠点及び、それらを必要とする芸術家などの関係者はどう生き延びているのだろうかということです。日本でもライブハウスの経営破綻、舞台役者の生活困窮などが伝えられています。

 自身もコロナウイルスに感染したリステール仏文化相は3月18日に国立造形芸術センター(CNAP)など文化芸術分野の国立センター緊急基金設立を表明しました。文化芸術活動に携わる人々への支援が目的です。政府が緊急支援予算をかさあげし、今後もさらに強化する方針なのでこの基金も増額される可能性があります。

 たとえば美術館の閉館、音楽演奏会、バレエなどの公演中止により、関係者の雇用維持のための支援策が打ち出されているわけですが、実はフランスは文化芸術活動に関わる組織や人々の生活は、様々な側面から守られていることも見逃せません。

 フリーランスでも例えば画家として生活していることが証明されれば、社会保障税が免除されるなどの措置は30年以上前から存在します。今、問題になっている不可抗力に伴う組織や個人の休業を強いられた時の補償も、すでに存在し、そこに緊急支援策が加わった形です。

 日本政府は世界に休業補償は存在しないの一点張りですが、法律や社会保障制度が大きく異なるだけで、休業補償の解釈の問題です。欧州は全般的に今回の疫病蔓延のような不可抗力の健康災害、自然災害については、それを国家が全面的に保護するという考えは徹底しています。

 日頃からフランスは社会保障を充実させているので、役所にそのシステムがあり、現金給付も迅速です。当然芸術に携わる人々は他の業種同様、特別に保護されており、例えばフランスには舞台芸術などに携わる人々、通称「アンテルミタン」に対して仕事がない時期に社会保険で所得を保障する制度が、すでに存在します。

 フリーランスで活動する人たちも一定の基準を満たせば、収入の激減に対して生活補償や失業手当を受け取れる制度があり、文化芸術活動は守られています。

 今回のコロナ禍のフランス政府の経済対策の一環として、企業の借入保証(3,000億ユーロ=約36兆円)と並んで、10億ユーロ(約1,200億円を投じて小規模・個人事業者(芸術文化も対象)に1,500ユーロ(約18万円)、場合によって3,500ユーロ(約42万円)を1カ月単位で支給する方針が打ち出されています。

 一方、今回のコロナ対策ではドイツのグリュッタース独連邦文化相が「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と発言し、500億ユーロ(約6兆円)を文化・芸術領域での収入減に直面する文化施設や芸術家に大規模な支援を約束し、注目されました。

 日本では在独の日本人ピアニストが、簡単なネットでの申請でいかに迅速に支援金を受け取ったかが報じられていますが、これはフリーランスの芸術家たちから「申請しても返事も来ない」などの批判の声が上がってドイツ政府が改善した結果でもありました。

Hopital de la Salpetriere
  パリ13区にあるサルペトリエール病院で働く職員がinstagramに投稿した写真

 実は、そもそもフランスの文化関連予算はドイツの2倍に当たる36億ユーロ(2017年)で、2倍の人口でGDPも上位の日本の4倍に相当します。つまり、社会の経済活動や公益性の高い活動に文化芸術は完全に組み込まれており、政権が代わっても予算は維持されている。今回の深刻な疫病蔓延の緊急事態でも、支援が後回しになるようなことはないということです。

 音楽や舞踏など一過性のパフォーマンスを軸とした活動は、発表する機会を失うと関係者のダメージは大きく、命を絶たれる状況です。日本でも演出家の野田秀樹氏が「劇場閉鎖は演劇の死」という意見書を出したりして危機感が高まっています。

 美術は作品が残るので発表の機会は完全に失われませんが、展覧会の中止が画家や彫刻家にとっては大きな痛手です。フランスでは7月まで文化・スポーツフェスティバル関連活動は禁止されていますので、カンヌ映画祭も今年の実施が危ぶまれています。

 日本では文化芸術活動は余裕がある時にやるものという考えも、まだまだあるようです。それでも東日本大震災で被災者を勇気づけたのが文化、芸術でした。イタリアではバルコニーから皆で歌を歌い、乗り越えようとしています。

 フランスではドイツのグリュッタース独連邦文化相が言うまでもなく、文化芸術は人間の営みに欠かせない存在という考えは完全に定着していますが、危機的状況だからこそさらに大切にしたいものです。

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