Dipromacy

 ポンペオ米国務長官は、トランプ大統領から国務長官に任命された時、「大統領は東西冷戦後にできた世界の枠組みを完全にリセットしたいということを理解した」と語っています。裏を返せば、アメリカの国益になるかならないかを徹底的に洗い出すということでもあったわけです。

 しかし、国家同士が密接な関係で動く世界においては、国益は世界の動向と深く関係しており、国家エゴは国益にも繋がりません。特に大国である米国の場合は国際秩序構築に大きな責任があり、それは国益にも繋がる話です。一方で支配するかされるかしか頭にない覇権主義は世界にとって脅威です。

 対中貿易戦争が香港の一国二制度を崩壊させる中国政府の暴挙によって、イデオロギー問題にまで発展し、そうなるとイデオロギーに敏感な欧州も貿易戦争を高みの見物してきたようなわけにもいかない状況です。トランプ政権が繰り返してきた中国覇権主義の脅威は本当だったと受け止められています。

 ところが世界は経済関係において、東西冷戦時代とは比べ物にならないほど密接な関係にあり、利害が複雑に絡み合い単純な対立の構図ではなくなっているのも事実です。トランプ政権の登場、中国覇権主義の加速によって、欧州が主張していた多国間主義や国連平和主義は機能不全に陥っています。

 安倍政権を振り返ってみると、日米同盟関係を重視する安倍政権の動きは、世界から見れば不思議だったと言わざるを得ません。欧州は北大西洋条約機構(NATO)の分担金が不平等とか自動車税を増やすなどトランプ氏の強硬態度に嫌悪し、距離を置くようになる中、安倍政権はあくまでトランプ政権との関係を強化し、安倍氏はトランプ氏が最も信頼する外国首脳だったといいます。

 人間関係構築を優先する日本独特のアプローチは、考え方の共有を優先する欧米社会では通常は通用しないわけですが、成果をあげることができたといえそうです。過去のいかなる時代よりアメリカの大統領に日本の首相が影響を与えたことは大きな実績です。

 今回、健康上の理由で安倍氏が辞任表明したことは、トランプ氏には驚きでしょうが、権力に固守しない潔さが日本人である安倍氏がトランプ氏に送った最後のメッセージだったかもしれません。

 考え方が合わないメルケル氏はトランプ氏への嫌悪感を露わにし、マクロン氏に至っては親子の年齢差があるにも関わらず、トランプ氏に説教しようとしたりしています。今やアメリカの足元にも及ばない経済力、軍事力しかない独仏首脳の頑固で尊大な態度は現実離れしています。

 日本は欧米と異なり、理念やヴィジョンを掲げて動くよりも、状況を見ながら上手に生きていくことに長けた国民性を持つ国です。安倍外交も米中対立が激化する中で、両国との関係をうまく保ちながら国益を追求する姿勢を貫いています。

 それは信念のない商人国家の狡賢い姿勢だと批判されることもあり、本当に自由と民主主義、法治国家、人権を信じているのかと不信感を持たれることもあります。しかし、安倍政権は少なくとも基本的価値観において自由世界に属していることを繰り返し強調しており、それは成果を上げたと言えます。

 今は冷戦後の世界の枠組みづくりに狡猾に侵入した社会主義で覇権主義の中国共産党の脅威を排除するのが喫緊の課題です。同時に経済を崩壊させることはどの国ににとっても国益にならず、信念と柔軟性の両方を備えたしなやかで粘り強い外交が必要です。

 それは日本が最も得意とするものであり、世界の役に立つもので、今後も日本の顔を明確にすることができれば日本をしぼませない道に導く姿勢だと私は考えています。

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