Lyon mussse picaso
リヨン美術館「ピカソ、水浴」展で演奏するドビッシー・カルテットの中の2人(YouTubeで見れる)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け10月末からフランスはロックダウン(都市封鎖)が始まりましたが、マクロン仏大統領の公式発表で段階的な緩和措置が発表されました。今は、美術館も閉館中ですが、12月15日、つまりクリスマス前には再開館の見通しです。ただし感染状況を見ての緩和措置です。

 フランスは今春にもロックダウンがあり、約2カ月間、美術館も閉館していました。特に世界最大級のルーヴル美術館がこれほどの長期休館したのは、第2次世界大戦以降初めてといわれています。同館は時々、職員のストライキで閉館することはありますが、これほど長く巨大美術館が無人状態というのは前代未聞です。

 世界で最も外国人旅行客の多いパリの美術館は、移動制限と厳しい公衆衛生基準で、今後も断続的なロックダウンで物理的に作品に接する機会が制限される可能性は高いといえます。ポストコロナは、果たして世界の美術館の展覧会を変えるのか、芸術そのものが変わるのか、どこにも答えは出ていません。

 ロックダウンは教育現場にも影響を与えた。通常、ルーヴルやオルセー美術館は美術の授業で訪れる小中学生で賑わってます。巨匠の名画や彫刻を前に十数人の生徒が床に座り、美術館の専門ガイドが解説している光景をよく目にします。

 世界最大級のルーヴルに集められた巨匠の作品を子供の時から解説付きで鑑賞できるのはなんとも贅沢な話です。

 そんな授業も今はヴァーチャルで行うしかありませんが、逆に移動の必要のない分、多くの美術館が提供するヴァーチャル・ツアーや動画サイトのYouTubeを利用した美術館紹介の動画を教室やテレワークの在宅授業で鑑賞することが多くなりました。

 「仮想博物館」、「インテリジェント博物館」、「3D博物館」という用語は、もはや新しいものではありません。コロナ禍が始まる10年以上前からネット時代に美術館は何ができるかに世界中の関係者が取り組んできました。それがコロナ禍でテクノロジーもコンテンツもさらに充実しています。

 その好例の一つが、欧州ナイトミュージアム・プロジェクトが急遽、ヴァーチャルに切り替わった例です。同プロジェクトは、フランス文化省が主催するものでフランス各地の美術館が取り組んでいます。なんだかハリウッド映画「ナイトミュージアム」が脳裏をかすめるプロジェクトです。

 パリ右岸にある現代美術を扱う国立美術館、パレ・ド・トーキョーでは、ロックダウン前に20人の若い世界中の芸術家たちを紹介するプログラムが進行していました。ところが、ロックダウンで11月14のライブイベントも急遽ヴァーチャルに切り替えられ、作家のインタビューを含め、作品の制作過程の動画など多角的に展覧会を閲覧でき、好評だと仏日刊紙ルモンドは伝えています。

 リヨン美術館では夜の展覧会場でピカソ作品の前で弦楽奏者が演奏するなどナイトミュージアム企画が目白押しでした。ところが想定外の美術館の閉館で、全てヴァーチャルに切り替えられ、映像配信した結果、予想以上の成功を収めているというのです。

 セザンヌ、ゴーギャン、ルノワールなど150の作品が同美術館で来年1月までに音楽演奏とともに紹介されるはずでしたが、12月15日までは、ヴァーチャルで実施しています。これがなかなかよくて、演奏家たちが彼らの音楽的感性で作品への思いを語り、さらに演奏することで、日頃は通りすぎてしまう作品に新しい発見もあるのです。

 ルーヴル美術館の文化プログラムの責任者、ドミニック・ドゥ・フォン・レオー氏は「展覧会のバーチャルツアーは、実際の来館者以上に人を集めている」と指摘しています。映画「ナイト・ミュージアム」さながら、無人の夜の美術館に忍び込んだ感覚で、興味深い企画が展開されています。

 子供の時からヴァーチャルで美術館体験することで、実際に美術館を訪れた時の感動はひとしおでしょう。今はそういう時代なのだと思います。映画「ダヴィンチコード」が世界で放映された後、ルーヴル美術館の来館者が急増した例もあります。

 デジタル化で世界中の豊かな文化が身近になるのは素晴らしいことですが、この分野は、まだまだ入り口に差し掛かったにしかすぎないといえます。

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