世界的視野で見て、日本は先進国の中でも政財界問わず、世代交代が進まない国の一つです。アメリカはブッシュ、クリントン、オバマと若い大統領が引き継いだ後、70代のトランプ氏や次期大統領と目されるバイデン氏は在任中に80歳になろうとしており、国のトップの高齢化は注目に値します。
とはいえ、若さが取り柄のアメリカでは、政治家や官僚、企業のリーダーを含め、30代、40代のリーダーは非常に多く、ヨーロッパでもフランスの42歳のマクロン大統領を筆頭に政財界には若いリーダーが少なくありません。ヨーロッパで最も日本に近いといわれる経験主義の英国でもIT産業の興隆とともに世代交代が進んでいます。
日本の世代交代が進まない原因には、下からのたたき上げで仕事を覚え、熟練するまでリーダーにはなれない職人文化があります。最近、日本の大手金融機関入社5年目で東大卒の日本人女性のグローバル研修を担当しましたが、フランスでは30歳の課長も多いと言ったら、「未熟な私などとんでもない」という反応でした。
経験主義に加え、人間関係が重視され、組織内の空気を読み、上司に忖度する能力が問われる日本では、リーダーになっている人物の多くが、その能力を備えていることに気づきます。これもその能力が磨かれるのには時間が掛かります。仕事で成果を出すだけではリーダーにはなれません。
大企業は終身雇用で入社年によってポジションが確保されている企業もあります。年功序列で既得権益を守る保守的体質が世代交代を妨げている場合もあります。日本の世代交代の遅れは、バブルがはじけた30年前から言われており、歴史ある大企業でも50代を社長に据える英断を下した企業もあります。
デジタル革命と無縁でいられる企業がない中、世界も社会も急激に変化しており、ポストコロナを見通す能力も問われています。例えば終身雇用が大企業からも消えようとする日本では、20代、30代のサラリーマンの意識は企業や組織へのエンゲージメントを含め大きく変化しています。
彼らにあるのは未来だけですから、敏感に時代の二ーズを感じているのに、発言力も権限も与えられず、時代に対応できない経営幹部に苛立ちを感じながら、転職や起業が常に頭をかすめている若者も少なくない時代です。
確かに経験豊富な人材も貴重ですが、人の育て方には大きな問題があります。例えば短時間労働で高いパフォーマンスを発揮するための生産性向上とか仕事の効率化など、自分が経験したことのないことを部下に教えるのは困難です。自分の知識や経験値を超えたことは教えられません。
なんでも落とし所で物事を決定してきたような人間は、明確なヴィジョンや実行可能な新たなビジネスモデルを即決即断する意志決定者としての能力は訓練されていません。本来、リーダーは誰がやらなくても自分自らの強い意思でやり抜く資質が必要ですが、上司の顔色ばかりを窺ってきた人間では意思決定はできません。
就任3か月を過ぎた菅首相は「口ベタだが意思は強い」とか「少ない言葉の中で悟ってほしいというスタイルだ」という人がいますが、今の時代、コミュニケーション力は重要さを増すばかりです。異文化間コミュニケーションで最初の改善点が「わかるでしょ」「いわなくても理解してほしい」という日本的なハイコンテクストの慣習を直すことです。
異文化は海外にあるだけでなく、国内の世代間ギャップも非常に大きいのが現実です。価値観も考え方も異なる多様な人々に自分の意図を伝えるコミュニケーション力、発信力は、ますます重要さを増しており、政治家にも企業のリーダーにも絶対必要な能力の一つです。
世代交代が世界一進まないだけでなく、コミュニケーション能力も不足していることは深刻です。まずはポジション崇拝をやめ、聴く力を養い、若い世代の意見に耳を傾け、権限を委譲する勇気が必要でしょう。
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