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 ドイツのメルケル首相の最後の年に暗い影を差すといわれる昨年前に大筋合意した中国と欧州連合(EU)の投資協定が、欧州議会の批准の段階で足踏みしそうです。新型コロナウイルスの猛威で痛手を受けた欧州経済の回復に対中経済関係深化は効果的と見る議長国ドイツの目論見に暗雲が垂れ込めています。

 EUの欧州委員会は昨年12月30日に大筋合意した中国との投資協定の文書案を22日に公表しました。ところがその前日、協定発効を最終決定する欧州議会が、協定は中国の人権問題を十分に検討していないと問題視する決議を賛成567、反対17の圧倒的多数で採択しました。

 議会は、中国が国際的非難を浴びている香港での安全維持法を根拠とした民主活動家の次々の逮捕、新疆ウイグルへの宗教弾圧、さらには南シナ海の力による支配などに対して、十分な議論なく、欧州委員会が協定合意したのは性急すぎたと指摘しており、ここにきて批准がスムーズにいかない状況に陥ったといえます。

 包括的投資協定(CAI)は、EUにとって中国市場をEU向けに開放させるために2013年に開始され、昨年12月30日に7年越しで原則合意にこぎ着けました。アメリカは、政権交代まで合意を待つようにEUに要請しましたが合意を急いだとも言われていますが、トランプ嫌いが発展してアメリカ嫌いになっているメルケル氏は、アメリカの干渉を嫌い、アメリカの政権交代直前に合意を断行しました。

 合意を急いだ背景には、アメリカだけでなく、中国との経済関係強化は新型コロナウイルス感染症拡大で景気後退にあるEUの企業には追い風になるとの考えもあったからです。デジタル化で遅れをとっているEUには、中国の安価な最先端の技術は重要です。

 それに協定に含まれる中国市場に参入しやすくなる合弁要件などの参入障壁の一部撤廃などへの期待感もあり、経済復興を急ぐ議長国ドイツのメルケル首相も同国出身のフォンデアライアン欧州委員長やフランスのマクロン大統領が合意に積極的でした。

 一方、中国にとっては、CAIは日中韓など15カ国が加盟した「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」に続き、自由貿易や投資促進に向けた姿勢を国際社会に示すことで、アメリカと欧州の分断をもたらすくさびを打ち込むことを意味します。コロナで弱った欧州は格好の餌食です。

 しかし、欧州の対中イメージは昨年、武漢発のコロナを欧州にまき散らしたこともあり、昨年8月下旬、投資協定の早期合意を施す目的で欧州を歴訪した中国の王毅外相に対して、行く先々で香港、ウイグル弾圧などの人権問題で強い非難を浴び、王氏は「内政干渉だ」と一蹴したものの、想定をはるかに超える険悪なものでした。

 一方、アメリカのトランプ政権の対中強硬政策から距離を置くEUは、アメリカの政権交代直前に投資協定で大筋合意した事で違いを見せつけた形ですが、メルケル氏やマクロン氏の思惑通りにはいかない状況が見えてきました。

 今回の投資協定には、中国の国有企業への不透明な補助金の禁止や、参入企業への技術の強制移転禁止措置も盛り込まれ、内容はアメリカが中国と合意した貿易協定を踏襲したものです。欧州委は協定発効により中国はEUルールに従うようになり、問題はないとしています。

 しかし、果たして中国が約束を守るのか、中国を十分理解していない欧州は、たとえ協定が発効されたとしても地獄を見る可能性は高いといえます。

 協定原則合意は、経済優先で人権軽視との国際的批判がメディアで報じられており、EUにとっては、人権重視のバイデン政権がアメリカに誕生したことで、トランプ政権で悪化したアメリカとの関係修復にもマイナスになるとの指摘も出ています。

 それにドイツの態度はロシアに対しては、強い警戒感を持ち続けています。それはロシアの正体を知っているからです。しかし、中国については欧州は地理的に遠く、文化的にも違いすぎるため、EUの認識は非常に甘いのが実情です。

 今やアメリカをしのぐ大国になったという意識を強く持つ中国は、怖いものなしというところでしょう。ましてや経済が弱体化する欧州に対しては、今後も強圧的でしょう。投資協定批准に向けての欧州議会の審議は大荒れになることも予想されますが、アメリカに主導権を握らせたくない欧州は中国という選択で大きく揺れています。

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