アメリカのキリスト教世論調査機関「ライフウェイ・リサーチ」の調査によれば、アメリカのプロテスタント教会内で約5割の牧師が、信者たちが陰謀論を繰り返し語るのを頻繁に聞いたと回答したとする結果を今月26日に発表しました。
今やアメリカの連邦議事堂襲撃事件で、一躍有名になったQアノンなど、陰謀論を信じる集団が世界中に広がっています。陰謀説は人類に大きなインパクトを与える変化が起きる時の典型的な歴史のパターンですが、アメリカにトランプ政権が誕生して以来、まるで陰謀説が世界の世論を動かしているようです。
ビジネスの世界でも消費者心理にビジネス効果をもたらす方法論として、本来やってはいけない消費者の危機を煽ることによって、消費意欲を刺激する方法は昔からありますが、近年広がる陰謀論の特徴は極めてグローバルなことです。
あの9-11米同時多発テロでは、たとえば破壊された世界貿易センタービルになぜかユダヤ人がいなかったとして、ユダヤ陰謀説が浮上しました。そのユダヤ人はアメリカでは富豪が多いことで知られ、アメリカ政治の実権は一握りの巨万の富を持つユダヤ人が動かしているとのうわさは絶えません。
アメリカのジャーナリストの7割がユダヤ人で、そのためイスラエルで起きる小さな事件も大きく報じられ、イスラエルに不利な報道は抑えられているといわれています。しかし、そうであるならばイスラエルを過去のどの政権より後押ししたトランプ氏が、なぜ再選されなかったのか疑問です。
そのトランプ氏は大統領就任以来、バイブルベルト地帯といわれる中西部から南部の福音派の信者の間では「トランプ氏は神が送り込んだ特別な指導者だ」という話をよく聞きました。アメリカにはびこる反キリスト教的リベラルな価値観とそれを後押しする中国の正体を暴き、徹底的に叩くために神が送り込んだというのです。
つまり、アメリカを自由の名のもとに宗教的規範を完全に排除し、なんでもありのリベラル思想を浸透させ、旧約聖書でいう不道徳の極みであったソドムやゴモラの町にしてしまい、国を弱体化させる目論見を持つ中国の陰謀をつぶすためにトランプ氏が神から送られたという話です。
それは世界支配を進める大英帝国が、清国に大量のアヘンを輸出し、巨万の富を得たことで起きたアヘン戦争を彷彿とさせ、その結果、香港まで手に入れた英国の恥ずべき歴史を彷彿とさせます。国民の間にアヘンが蔓延し、弱体化していった清(中国)が、現代のアヘンであるリベラル思想をアメリカに蔓延させ、国家の弱体化を図ろうとする陰謀という説です。
かつてユダヤ人が住むユダヤの地がローマ帝国の支配を受け、多くのユダヤ人が奴隷となる中、救世主(メシア)待望論が高まりました。イエス・キリストが磔刑された後,逆境にあえぐ1部のユダヤ人が、自分たちを解放するために神が送られ、その磔刑で天国の道を切り開いたのがイエスだとしたのがキリスト教の始まりといわれています。
自分たちの苦痛は陰謀によるもので、その陰謀を暴き、救い出してくれるのが救世主だという思考は歴史の中に何度も再現されてきました。その陰謀は人の目を欺き、知らない間に自分たちを追い込んでいくと信じられ、たとえばグローバルゼーションが職を奪ったと考えるプアーホワイトたちが陰謀説に飛びついたともいわれています。
陰謀説には陰謀を謀る主役がいるのが常です。人間の心理を読み込み、計り知れない計略が隠されているということで、最近ではウイルス拡散で得をするのは誰かに注目が集まっています。世界支配にあと一歩の中国が自国の膨れ上がった人口をウイルスで減らしながら、欧米やインドなどの大国にウイルス攻撃を加えているという陰謀説もあります。
コロナ禍を抜け出す切り札とされるワクチンで巨万の富を手にする者がウイルスをばらまいたという陰謀説は、コンピュータウイルをばらまくものがウイルス駆除アプリで大儲けするというパタンそっくりです。
陰謀論は不確実性が高まり、不透明感の中で極度の不安が広がる時に拡散されるのが常です。第2次大戦後10年を過ぎた頃から世界に広がった学生による左翼運動も、先進国で貧富の差が広がる中、権力者陰謀説が運動を支えました。人々の不安や不満の高まりと陰謀論の拡散は無縁ではないということです。
前出のライフウェイ・リサーチのスコット・マコーネル所長は「キリスト教会は真理に焦点を当てた場になることを決意した場所なのに、牧師の半数が、陰謀に関する思い込みが信者の間で広がっていることを耳にしている」と語っており、困惑しているようです。
人が陰謀説に耳を傾ける時は、何か良からぬことが起きているのを直感的に感じている時ともいえます。ハリウッド映画は陰謀を題材にした映画が非常に多く、世界の終わりを告げる終末と陰謀はハリウッド映画の特徴です。それはキリスト教に終末説があり、人間を滅亡させる悪魔の陰謀があるからともいえます。
悪いことが起きると、人間は他人のせいにし責任転嫁しがちです。陰謀論も人間の弱さからくる側面もあります。確かに人知を超えた現象は、我々の周りには多いわけですが、根拠や証拠に基づかない陰謀論は、話としては面白くても非生産的で何もポジティブなものはもたらしません。
私の経験では中国や韓国には責任転嫁の陰謀論が渦巻いています。そんな陰謀論に与しても改善はされないでしょう。正義感は大切ですが、まずは常に最善の選択ができるよう自分の良心を育て、責任転嫁せず、良識を養う方が陰謀や嘘を見抜き、被害者にならないためには重要だと思います。
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