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 海外に日本経済の仕組みを紹介する時、必ず登場するのが「企業文化」です。たとえば日本でビジネススクールが普及しない理由は、各企業で企業文化が違いすぎ、マニュアル化されたビジネススキルを学ぶのが困難だからと説明されてきました。

 終身雇用が当たり前だった日本の大企業において、それぞれが創業者の経営哲学に従い、独特の企業文化を形成してきた日本では、たとえば同じ自動車業界でも,ホンダに10年いた人が日産に転職するのは困難といわれてきました。理由は本人のスキル以上に企業独自の文化との親和性が重視されてきたからです。

 企業文化を日本の特徴として紹介するぐらいですから、転職が日常の欧米には企業文化は存在しないのかと思われがちですが、日本のリクルート社が2年前に1,300億円で買収した求人口コミや採用ブランディングで世界的ネットワークを持つグラスドアの調査で、アメリカ人の転職理由のトップが企業文化が合わないことを挙げています。

 離職、転職理由で「面接の時点で期待したものとは異なる側面があった」と回答したのは61%に上り、その期待外れの大きな要因の1つが企業文化だったとしています。ある意味、驚きなのは人間関係より、個人のスキル優先で合理的、効率的経営を強調するアメリカで、企業文化のインパクトが意外に大きいことです。

 たとえば政治信念の問題もその一つです。2018年6月、米巨大テクノロジー企業、グーグルは、ドローン(無人機)の映像を解析する国防総省との契約を「戦争事業」に関与すべきではないとする嘆願書に従業員数千人が署名したことを受け、契約更新しないことを発表したことがあります。

 ところが従業員の中には、会社の判断に強い違和感を感じた従業員がいたそうで、騒ぎになりました。同じグーグルを含むGAFAが2017年の大統領選挙で、会社をあげて民主党のクリントン候補を応援したことが問題になったこともあります。

 当時、ウォールストリートジャーナルは、これら巨大IT企業がアメリカの大統領選で、リベラル派を代表するクリントン候補を露骨に支援し、社員たちによる巨額の政治献金が行われていた実体を明らかにしました。同時にその政治色濃厚な行動で、社内のトランプ支持者が窮地に立たされている実情も紹介しました。

 米紙ニューヨーク・タイムズが2018年11月に、過去10年に性的不品行(セクハラ)の疑いで告発されたグーグル幹部3人をグーグル側は擁護し、特に、うち一人は辞職にあたり、2014年に9000万ドル(約100億円)の退職金を手にしていたと報じ、リベラルで女性重用を歌う米巨大IT企業でセクハラ問題が軽視されてきた実態が浮上しました。

 社員の中には、この問題で会社を批判したことで逆に社内で窮地に立たされた例もあったといいます。ITで世界を変えると豪語する世界の若者が憧れる企業内に巣くうモラル欠如の問題は、語られざる離職を生んでいるといわれています。

 興味深いのは、コロナ禍でリモートワークが増えたことで、それまで職場と自宅を分離してきた生活から自宅に自分の働く会社が入り込むことで、自分にとって会社の持つ企業文化との親和性がいいのか悪いのかを、より客観的に見れている新たな現象が起きていることです。

 「企業は人」「わが社は社員を大切にする」という日本企業は少なくありません。ところがリモートから見える企業文化は、表向きのモットーとは大きく異なる場合は少なくありません。特にコロナ禍でビジネスそのものが窮地に立たされた時、その企業の本性が現れるものです。

 実は日本の最新の失業率2.9%は世界的に見ても驚くほど低い数字です。無論、その背景には転職したくても景気が悪すぎて機会が少なすぎることや、そもそも帰属意識が強く、苦痛を味わいながらも一生懸命に会社のために働く日本人のメンタリティがあるのも確かです。

 しかし、離職や転職ではなく、失業は解雇によって起きることなので、雇用者側の判断です。売り上げが上がらず、追い詰められた企業の合理的判断は人員整理でしょう。それを日本は欧米に比べてしていないということです。

 とはいえ、企業文化は働く者にとって極めて重要です。今はインターネットでたとえば企業のブラック度をグラスドアなどの口コミサイトのレビューで見ることもできます。今務めている会社で限界を感じ、次を探す時、同じ失敗はしたくないものです。

 どの企業にも立派な建前と現実にはギャップがあるものです。男女平等を歌う企業で実際に女性管理職の占める割合を見れば一目瞭然です。ダイバーシティ重視といいながら、外国人従業員ゼロという企業もあります。人を大切にするといいながら、パワハラが日常化している企業もあります。

 そのため就活の際、特に転職では雇われる側も会社に対して、チームワークがうまくいかない場合、どう対処しているのか、仕事でミスをした社員をどう指導しているのかなど具体的な質問をぶつけてみるべきだというキャリアコンサルも出てきています。

 ポストコロナは大きく人が動くともいわれています。それは企業にとっても雇われる側にとっても新たな挑戦の時が到来するということです。日本にも本格的な転職の時代がくることでしょう。報酬だけでなく企業文化で社員の満足度の低い会社は確実に不利になるといえそうです。

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