法律の専門家によれば、日本は差別に関する法律が他の先進国のみならず、新興国に比べても少ないそうです。それは日本が差別のない国なのではなく、社会問題として深刻化することの少ないマージナルなものだったからだと私は見ています。
そのため、差別是正を叫ぶ勢力の多くは、弱者を利用して既得権益を持つ勢力を攻撃する反権力の左翼と相場が決まっていました。結果的にその政治的意図が邪魔して差別問題は社会の中心問題になることはなく、嫌悪だけが渦巻く、非建設的でヴィジョンや方策も議論されない後ろ向きのものでした。
今回の五輪・パラリンピック組織委員会の森会長の女性蔑視失言への批判も海外からの批判がなければ、嵐が過ぎ去るのを待つだけという雰囲気でした。外圧や国内の聖火リレー参加者、五輪ボランティアの次々の辞退で会長辞任を追い込まれましたが、そこにも左翼の言論操作があったといわれています。
実は、政治とは別のところで、グローバル化に本腰を入れてきた日本企業は、この20年間、国内外で差別問題には取り組んできました。なぜなら、多文化環境の中で成果を出すためには、人種や宗教、ジェンダーといった問題は無視して通れない問題だったからです。勤勉なタイ人女性に働いてもらうのに社内に女性蔑視の考えがあれば辞められるだけです。
その国の文化が許容できるように働き方を工夫するのは当たり前のことです。結果として文化のダイバーシティ・マネジメントは最重要課題の一つです。その自覚のないままに海外進出する企業や国内で日本人以外の人材を採用する企業は、必ずトラブルに巻き込まれています。
日本の文化の強みは、似たような価値観を持ち、似たような発想を持つ人間が大多数を占める類似性の高い国民で構成されているために、ダイバーシティ・マネジメントにエネルギーを費やす必要がなかったことです。組織は働く人に忖度を要求し、組織文化の空気が読めない人はいられないという社会でした。
暗黙の了解、以心伝心はコミュニケーションの効率化に役立ちました。通常、多文化・多文化・多宗教社会では意思統一そのものが困難を伴いますが、日本は一つの価値観を押し付けるのが容易でした。それが効率化にも繋がりました。
某体育系の雰囲気のある日系企業で研修を担当した時、企業側は経営理念を海外拠点で働くナショナルスタッフの幹部に周知したいという要望がありましたが、シンガポール人から「さっぱり理解できない。なぜそんなものを社員に押し付けるのか」と反発が起きました。
中国系住民がビジネス界を牛耳るシンガポールは、多文化、多人種、多宗教社会です。そればグロー−バルビジネスでの強みです。文化の異なる人々が協業する環境を重視するため、日本人にしか理解できない経営理念は伝わらないどころか、反発するわけです。
日本社会の差別意識は、コップの中に泥が沈殿している水に例えることができます。日頃は泥は底に静かに沈殿し、水は澄んでいるように見えます。ところが、そのコップを揺さぶれば、泥は舞い上がり上水に交じり、全体が汚い水になります。つまり、日本は差別という泥は下に沈殿しているだけで、差別が社会問題になっていない、気づきがないということです。
たとえば、自分の会社の上司が中国人や韓国人、欧米の白人、黒人になったらどうでしょうか。コップは揺り動かされ、葛藤が始まるはずです。ジェンダーも同じで自分の上司が女性になった男性に葛藤が始まるケースは少なくありません。
特に儒教的縦社会で人間の上下関係に敏感な日本では、人の上に立つ者より下の者がどうあるべきかが問われるため、試練はなおさらです。メンツを重んじる男性社会を無視する女性リーダーが現れれば、男性は気持ちよく働けなくなります。逆に自分の話を聞いてほしい傾向の強い女性は話を聞こうとしない男性リーダーに不満を持ちます。
今まで放置してきた、あるいは観念的理想主義の看板を掲げた左翼勢力に政治利用されて社会の隅に追いやられてきた差別意識の問題は、グローバル化時代、ポストコロナで避けては通れないイシューに浮上しています。
差別の根本は、左翼の人たちがいうような敵は外にいるのではなく、自分の内に潜んだ問題です。ステレオタイプの固定観念は異文化理解の妨げであり、差別は相手への無理解から起きるものです。つまり、差別は誰かのせいにする問題ではなく、差別意識は内なる自分との戦いです。
そこに必要なのは、ために生きる姿勢です。異文化に対して相手を幸せにするにはどうしたらいいかという心を持てば、自然と相手を理解するよう努力し始め、何が互いにとっていいことかを考えるようになるということです。それでも差別は簡単には抑え込めないので、法律も必要でしょう。
差別問題で敵を作り、嫌悪のサイクルに入れば、アメリカの黒人と白人の血みどろの戦いのような事態になるのは避けられません。対立を嫌う日本人の良い部分を強化し、互いに相手に寄り添い、相互理解を深める努力が必要だと思います。
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