USeuJAPANuk

 一般的に仏独などの欧州大国は、人権重視の原則論が重視される理想主義で、米英はプラグマティズムの現実主義と見られることが多い。ロシアが2014年ソチ冬季五輪で同性愛者の権利を主張する活動家の入国制限をする法律を作ったことに抗議し、メルケル独首相はじめ大半の欧米主要国首脳は開会式参加を取りやめました。

 この数年は香港、新疆ウイグルへの中国政府の弾圧に対して、米英は激しく抗議し、両国の中国駐在のジャーナリストが国外追放されたりしています。人権外交を前面に出す構えのバイデン米政権は、自由と民主主義、人権、法治国家という原則を順守する国々との国際協調が外交の柱といわれています。

 つまり、価値観を共有する国々と協調し、独裁権威主義国家の脅威を退けようという構えです。国際的に定着しているイメージとしては、欧州は価値観へのこだわりが強いイメージですが、実は米英ほどのこだわりはありません。

 声高に理想的理念を口にする欧州首脳の頭の中は「政治と経済は別物」であり、内向きで欧州以外の国に対する理念の押し付けに関心がなくなっています。

 それを象徴するのが、対中外交です。フランスの国立保健医療研究所(INSERM)が2月6日に公表した新型コロナウイルスの発生時期について、世界が認識している2019年12月8日に中国・武漢で検出されたのが最初ではなく、その1か月以上前には欧州に到着していたという研究結果が発表されました。

 欧州で最初に感染拡大が始まったイタリアやフランスでのパンデミックは、欧州最大の中国人観光客と中国人ビジネスマン受け入れ国の両国に2019年秋にはウイルスが到着していたという話です。そんな発表で欧州世論が中国への反発をどこまで強めるのかは動向を見守る必要はありますが、政財界には大した影響がないのも事実です。

 欧州連合(EU)統計局ユーロスタットは15日、昨年、EUの最大貿易相手国が米国を抜いて中国になったと発表しました。ユーロスタットによれば、2020年の対中貿易総額は5860億ユーロ(約75兆円)に達し、対米の5550億ユーロ(約71兆円)を上回ったことを明らかにしました。

 これがコロナ禍で、米国経済が冷え込む中、中国だけが早期に感染拡大を抑え、経済回復した結果で1年限りのことなのかどうかはは分かりません。ただ、欧州が中国に向いていることは確かです。

 今、欧州議会で承認を急いでいる中国と昨年12月に大枠合意した投資協定は、トランプ前政権が合意をとどまるよう要請したにも関わらず、駆け込みで年末に合意しました。欧州ではイタリアだけでなく、フランスも中国の広域経済圏構想「一帯一路」を支持しています。

 欧米という括りは、実は米英と欧州を分けて考える必要があります。イラク戦争の時にロンドンで数人の英国人と激しい議論をした時、保守派のラテン語の教授は「われわれの価値観を今こそ示す時だ」としてイラク攻撃の正当性を主張しました。

 ところがフランスでは大量破壊兵器の確認が取れない限り、イラク攻撃には参加しないと表明し、その時何度も耳にしたのは多文化主義、多極化均衡論でした。軍事的脅威が欧州に向けられない限り、他国の主権に関わる問題に踏み込むべきでないという主張でした。

 ドイツも香港やウイグルの中国政府の弾圧は非難しつつも、経済関係強化は推進する構えで、今や無視できない中国の経済力に対して現実路線で対応しようとしています。表には人権などの理想主義から中国を批判していますが、フランス、ドイツの優先順位からすれば経済最優先の現実主義が主流です。

 その現実主義が裏目に出たのが、ロシアのプーチン政権の反政府抵抗勢力のナワリヌイ氏の逮捕に対して、アメリカは何らかの行動を取るよう欧州諸国に圧力を掛けたにも関わらず、EU欧州委員会はボレル外務・安全保障政策上級代表(EU外相)をモスクワに送り、友好関係を模索しようとしました。

 結果は、実に4年ぶりにEUが送り込んだボレル外相がEU未承認のコロナワクチンを称賛したのに対して、ロシアのラブロフ外相は、EUは「信用できない」と述べ、さらに同じ日にロシア政府は、駐ロシアのドイツ、ポーランドなど3か国の外交官3人をナワリヌイ氏釈放要求デモに参加したとして本国送還を発表し、冷水を浴びせられました。

 実は欧州の歴史では、自らの価値観を広める考えは薄く、英国でさえ、インド統治ではインドの民主化には消極的でした。フランスやイタリアはアフリカを奴隷と資源の供給源として利用し、アフリカ自体の発展に寄与しようという考えは希薄で、欧州諸国は国益第一でした。

 一方、アメリカは理念先行型で人工的に作られた多民族国家で、自由と平等、公正さ、人権、法の支配は絶対的な原則で、普遍的に価値観と考えています。世界に対しても伝道師のような考えがある国です。それがソ連との東西冷戦の根底にあったのは事実です。

 アメリカのバイデン政権はトランプ政権で傷ついた同じ価値観を持つ国々との関係強化に動き出しているわけですが、欧州の現実主義からすれば、理想主義の共有を協調の要にするには無理があるという話です。そのため国際協調の鍵を握るのが日本ということになります。

 つまり、日本が欧州経済にとって頼みの綱という存在になれば、中国への異常接近も欧州分断攻勢も防げるということです。無論、アメリカも対欧投資も増やす必要があります。欧州の分断を画策し、欧州を手中に収めたい中国に対抗するためには、日本は欧州との関係強化は必須ということだと思います。

ブログ内関連記事
対中政策に揺れる欧州の選択 年末に駆け込み合意した包括的投資協定を欧州議会がストップ
日英貿易交渉 異例のスピード決着 急ぐ環太平洋に軸足移す英国の戦略は吉と出るか
TPPやEPAで存在感を示した日本だが、次は日米欧の連携強化で政治力が問われる
安倍首相辞任と日本の存在感 日本を頼りにしている国は非常に多い