河野太郎規制改革担当相は26日の閣議後記者会見で、米製薬大手ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンについて、6月末までに高齢者全員が2回打てる分量を各自治体に供給する方針を明らかにしました。ただし、日本へのワクチン輸入は欧州連合(EU)の承認次第だと付け加えました。
6月末とは世界的に見ても途上国並みの遅さです。東京五輪・パラリンピックを控えた国とは到底思えない遅さです。たとえ世界的に見ても感染者数や死亡者数が少ないとはいえ、五輪開催への日本政府の本気度は全く見えません。
一方、ワクチン確保の鍵を握るEUもワクチン接種は進んでおらず、実は裏に似たような事情があることは見逃せません。それは日本とEUは官僚大国だということです。
興味深いのは今年1月にEUを離脱した英国のワクチン接種のスピード感がEUを圧倒していることです。英国の住む私の友人は家族全員が1回目の接種を済ませ、2回目ももうすぐといっていますが、フランスでは親せきの誰も接種は受けていません。
実際、EUでは加盟国のワクチン接種のペースが遅いことが批判されており、具体的な原因といわれる供給の遅延問題で、EUで生産されたワクチンの域外への流出を制限する輸出管理を導入しました。対する英国はワクチン承認が迅速で、接種は進んでいます。
EUは2020年6月に設立されたコロナ対策の制度により、EUが加盟国に代わってワクチン購入の交渉することになりました。これはコスト削減と、加盟国間の争奪戦を回避するためでした。加盟国は同制度に参加する義務はありませんが、全27加盟国が参加することを選択しました。
とはいえ、加盟国はEUが合意していないワクチンメーカーとも個別交渉が許可されており、結果として日頃からEUの決定に反旗を翻すことの多いハンガリーは、ワクチン供給の遅れに業を煮やし、中国の製薬会社シノファームが開発した新型コロナウイルスのワクチンを今月16日に入手し、接種が始まっています。ハンガリーはロシアのスプートニクVワクチンの購入にも同意しています。
EUは供給の遅れについて、昨年12月に3億回分のファイザー-BioNTechワクチンを契約したにも関わらず、域内での製造に問題が発生し、契約通りの供給ができなくなったことを契約違反と批判しました。ファイザー側は納期は努力目標だとして反発し、未だに両者はかみ合っていません。
実際、ファイザー社がベルギーの加工工場の能力を増強する間、配送が一時的に減少したのは確かです。それでもEUは注文を2倍にして、フランスのサノフィ社がファイザーワクチンの製造支援を表明したものの、製造態勢を整えるのに夏まで掛かりそうです。
一方、米モデルナ社製ワクチンも供給に問題が発生し、フランスとイタリアでは予想を下回る供給しか受けていません。英オックスフォード・アストラゼネカ製ワクチンもベルギーとオランダの工場での生産が遅れており、供給は不足状態です。
ここで浮上したEU生産のワクチンをEUが確保できないジレンマから、EU製造ワクチンをEUの承認なしに域外に持ち出せない輸出規制をかけました。この規制により日本もワクチン確保が容易でなくなっているわけです。しかし、この輸出規制は思わぬところで英国との摩擦を生みました。それが英領北アイルランドの国境に定めらえたアイルランド議定書を無効にするという問題でした。
アイルランドと国境を接する英領アイルランドは、ブレグジット後も物流でEUのルールに従うことで国境検問の復活を回避しています。ところがワクチンの輸出規制で検査が必要になれば、どこで規制をかけるのかということになり、英政府は猛反発し、EU側は英国に対しては輸出規制をかけられなくなりました。
接種遅延には、ワクチンへの不信感の広がりもあります。たとえば、今年1月、EUの医療規制当局は、すべての年齢層にアストラゼネカワクチンを使用することを承認しました。ところが、フランス、ドイツ、イタリアを含む多くのEU諸国の規制当局が、65歳以上の人々に使用すべきではないと勧告したことで、ワクチンへの不信感が高まりました。
フランスのマクロン大統領は、アストラゼネカ製ワクチンは高齢者には効果がないと発言、アストラゼネカ社は「なんの科学的根拠のない発言」と強く批判し、発言は撤回されたものの、一度広まった噂は今も影響を与えています。
ここで浮上したのが離脱後の英国のワクチン接種の進行と遅延するEUとのギャップです。英国がファイザーワクチンを承認したのは11月で、EU規制当局の承認の3週間前でした。英国側はブレグジットしていなければ、EUと同じ状態に陥っていたといっています。英政府は、EUの外にいることで、ワクチン接種が迅速にできたと自慢げです。
EUのワクチン接種の遅延には、まず、ワクチン承認の厳格さと煩雑な承認プロセスが大きく影響したことは否定できません。世界で最も厳しい規制をあらゆる分野で敷いているEUは、緊急対応で遅れをとりました。同時に確保や接種の施行に関して事情の異なる27か国での調整にも手間取りました。
その間、想定外のことがいくつも起きました。たとえばEU域内の生産拠点の生産能力の限界です。さらには物流にも問題が発生しました。そもそもEUが加盟国に代わってワクチン確保の交渉を担うことで遅れが生じた部分もあります。その背景に横たわるのはEUの強烈な官僚体質です。
これを嫌ってEUを離脱した英国の接種が圧倒的なスピードで進んでいるのは当然ともいえることです。ワクチンのみならず、あらゆる分野でスピード感が要求される時代、動きが遅い官僚体質はリスク管理にも悪影響を与えています。
しかし、EUと日本は似たような官僚体質があり、遅々として進まないPCR検査やワクチン確保の遅れは、それを露呈しているといえそうです。
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