東日本大震災は世界的に見ても過去にない世界最大規模の大地震、津波、原発事故の3つの災禍に襲われました。そこから立ち直った日本を見せたいというのが東京五輪・パラリンピックの原点でした。ところが昨年来、地球規模のコロナ禍に襲われ、人類は共通した大規模な災禍に見舞われています。
今月、東京五輪・パラリンピックの開催の有無を決定するとしていますが、再選されたIOCのバッハ会長は開催の方向で強い意欲を見せています。国民の8割が中止か延期に気持ちが傾いているにも関わらず、無観客でも開催を強行するには、それなりの大義名分が必要です。
その大義名分は日本人が意識しているより、はるかに大きなものであるべきです。つまり、国威発揚や経済効果のレベルでなく、世界最大のスポーツの祭典は、ドメスティックな震災復興だけでなく、コロナ禍の脅威に晒される世界の人々が一致団結してコロナを抑え込み、悲しみを乗り越えて再生していくレジリエンス(再起力)を実感する五輪が求められていると私は感じています。
災害は人間の力ではどうすることもできない地震や津波のような自然災害とともに、原発施設に対して想定されていた津波のレベルの甘さや、クライシスマネジメントの不備など人災も加わるのが常です。新型コロナウイルスも未だ発生源を特定できず、さらには各国政府の初動の遅れなどは人災です。
東京都、JOC、組織委員会が選択しようとしている外国からの観客を受け入れない大会の形になる可能性が高まっていますが、形式はともあれ、ヴィジョンのリセットは必須です。常識的に考えれば、無観客とか国内の観客のみの受け入れで、世界最大規模のスポーツの祭典は成立しないのではという意見が大勢を占めているのかもしれません。
しかし、個人的にはもし実施するとするなら、最大限ITテクノロジーを活用し、デジタルで迫力や臨場感を感じ取れる五輪にすべきでしょう。協議を見に行くよりテレビで観戦した方が細かな部分まで見れていいというわけですから、無観客でもデジタル技術で臨場感は補えるはずです。
最大の懸念であるウイルス感染対策について、JOCは「大会の安全と成功のため」東京五輪関係者が順守すべき厳しい規制の概要を記載した4つのプレイブックがまとめられました。アスリートと彼らのスタッフ、国際スポーツ団体関係者、取材許可を得た報道関係者などが対象です。
規制には日本入国後の最初の14日間の宿泊先、訪問先、移動手段、接触相手などの詳細な計画を日本の当局と共有することや、日本滞在期間中、宿泊先を離れる際の目的地は公式の競技会場とそれに付随する場に限られ、許可なく公共交通機関を利用してはならず、観客として競技会場を訪れることも許されず、まして観光地、小売店、レストラン、バー、ジムなどを訪問も禁じられるといいます。
規制の違反が見つかれば、アスリートは競技参加ができなくなり、報道関係者が取材許可証を没収される可能性もあるとしています。しかし、国際常識からすれば、誰もが日本人のように規制を真面目にまもるとは思えません。監視を強化すれば来日したアスリートや報道関係者に不快感を与えるでしょう。
大会を無菌室状態で実施するには参加者の理解が必須です。そこまで行動を規制し自由を制限する刑務所内のような状況を作り出してまで、実施する必要があるのかという議論も始まっています。
さらにワクチン接種の進み具合も大会の成功を左右するでしょう。プレイブックはワクチン接種状況には左右されないと締めくくっているようですが、大会中、感染リスク、感染させるリスクの少ない集団と、リスクの高い集団に2分される可能性もあります。
自由や差別に敏感な欧米人は、その規制をどこまで理解できるのかは大きな課題です。日本人ならお上が決めたルールは守るべきと思うかもしれませんが、自分の意見を堂々と述べルールに容易に従わない西洋人、納得しなければ受け入れないインド人、ルールの裏をかこうとする中国人や韓国人などに規制をかけるのは容易なことではありません。
規制の責任を負う日本人スタッフの苦労が目に浮かぶようです。それでも大会関係者全員が不快な規制を受け入れるとすれば、すべての人々が納得するヴィジョンが必要です。それは東日本大震災からの復興の実績を示すだけでなく、コロナ禍で傷ついた世界の人々の再起力(レジリエンス)を実感してもらうことです。
未曾有の難局を乗り越えるために世界が団結する必要があり、厳しい措置も再起するために必要だと思わせる必要があります。スポーツにはその力があると思います。そしてやり切って成功すれば世界にそのモデルは適応されるはずです。その意味でコロナ感染症からの回復に日本が果たす最大の貢献になり得る可能性があるといえるでしょう。
ブログ内関連記事
五輪組織委員会の騒動の裏側 海外報道には出ない評価される日本人の高潔さ
五輪組織委員会のトップ人事 交渉や調整力より本来のヴィジョンで国民の心に火を点けること
コロナ危機が生むチャンス 新たな可能性を模索するネックストノーマルの必須事項
東京五輪の成功とリーダーシップ

コメント