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 フランスは新型コロナウイルスの感染が深刻化し、3月に入りリバウンド状態です。政府はロックダウンに乗り出しましたが、効果は見られず、医療体制のひっ迫は限界状況にあり、はっきりいって政府の対策も「打つ手なし」の状況に陥っている印象です。

 フランスでは先週24日の直近24時間の新型コロナウイルスの新規感染者が65,000人を超え、今は4万人代前後で推移しています。政府は感染拡大が第3波に入り、特に英国の変異株が猛威を振るっているとの認識を示しています。20日から16の県でロックダウンを実施、その後対象に3県が加えられています。

 昨年3月の最初のロックダウンから1年の経験から、重点的で市民の経済活動の抑制は最小限にし、散歩や運動のための外出の行動範囲を1キロから10キロに広げ、時間も無制限とし、会社にはリモートワークの徹底をいわば強制的に行っています。

 政府は最後の砦ともいうべき学校閉鎖は行っておらず、仏保健省は「学校閉鎖には健康面だけでなく、心理面および社会面への影響も非常に大きいため、これは政治的な決定となる」としていますが、学校でのクラスター(集団感染)も発生しており、閉鎖も時間の問題と報じられています。

 そうした対策に疑問を呈するフランス人は多く、若者たちはロックダウンが始まった20日、対象県には入っていない南フランスのマルセイユで6,000人以上が集まる無届け、無許可のカーニバルを強行し、目的は政府の対策への抗議だったともいわれています。

 さらに今年1月、専門家からロックダウンの必要性を迫られながら、ロックダウンしなかったマクロン仏大統領への批判が高まる中、ロックダウンを拒否したことは「後悔していない」「私の判断は正しかった」といい、欧州連合(EU)首脳会議でも「すべてのモデルが予測した規模の爆発的な増加はなかった」と自身の判断の正当性を主張し、「失敗は認めない」と主張しました。

 この発言に最初に反発したのは、コロナで亡くなった人の遺族たちで、SNS上で「傲慢だ」「誰でも対策が完ぺきだったなどいうべきではない」という意見が飛び交いました。マクロン流の「決めるのは私だ」という意志決定者の正当性の主張ですが、ベターはあってもベストな対策などありえないのに、ベストだと強弁する態度が反感を買ったといえます。

 フランス人はオランダのの社会心理学者ホフステード博士の国民性指標によれば、不確かな状況にストレスを感じる数値が日本人同様高いとされています。つまり、コロナ禍はフランス人には大きなストレスになっていることから、批判論がひろがっていることは実際の肌で感じます。

 強がりで「平気だ」というフランス人も内心は不安と恐怖で一杯です。1日に6万人も新規感染者が出ると感染も身近です。私自身、フランス人の妻の弟、姪っ子夫婦が感染してしまいました。足元に忍び寄る恐怖、集中治療室(ICU)の病床占有率が9割を超える状態では、重症化すれば緊急治療が追い付かず、助からない可能性もあります。

 そこに今度は新型コロナウイルスのワクチン接種の遅延も重なっています。ヴェラン仏保健省は「国民は精神的にも追い込まれている」と指摘しています。そんな精神状態に忍び寄るのが、ウイルスおよびワクチン陰謀説です。

 英BBCによると陰謀説はヨーロッパでは英国よりフランスの方がはるかに広がっていると指摘しています。特に仏語のSNSでは、陰謀説の拡大は科学的根拠を欠くものや完全に誤報と思われるものも含め拡散を続けていると指摘されています。事実、陰謀説を信じる人は私の身近にも少なからずいます。

 「ワクチン開発が以上に早かったのは、巨大資本が莫大な収益を見込んで科学的治験を大幅に省いて実用化しており、非常に危険性が高い」「ワクチンはDNAを改変してしまう」といった具合です。BBCの調査によれば、仏語で極端なワクチン忌避内容を共有するページのフォロワー数は、2020年に320万人から約410万人に増加したとしています。

 陰謀説が政治と結びつきやすいフランスでは「民主主義がいわゆる”衛生独裁”に取って代わられる」など反対派のコミュニティとともに、ワクチンによる新たな人間支配が水面下で進められているといった懸念が渦巻いています。ワクチン接種を妨げる明らかな誤報の陰謀説が1200件確認されたとフェイスブックはいっています。

 逆にワクチン接種推進派もSNS上で陰謀説を批判する動きに出ていますが、あるサイトの運営者は陰謀説を流すグループから殺害予告を受けたといっています。ワクチン接種を積極的にしたいと思っている人は世論調査で40%にとどまっているのも、ワクチンへの警戒感の強さを表しています。

 専門家の中には、今回のワクチンが異常なスピードで開発され、実用化されている事実からすれば「誤報に対しては脆弱だ」と陰謀説拡散が、ある意味仕方がないことだと認める意見も出ています。政府の対策への不信感の高まりと相まって、陰謀説は増える一方です。

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