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 東京五輪・パラリンピック開催に向け、外国からの入国者に対して、日本政府は新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する、いわゆるワクチンパスポートの導入を検討しているようです。ヨーロッパでも、その議論は観光に依存している国が多いため、当初は否定的でしたが、今は有効性が注目されています。

 英国でも政府が導入を検討していますが、このほど70人以上の議員団が反対を表明し、注目を集めています。英政府は、パブやスポーツイベントなど多数の人が集まる場所に入る際にワクチンパスポートの提示を求める案を検討中ですが、野党議員や市民団体に加え、一部の与党議員からも「差別につながる」と反対の声があがっています。

 感染拡大が周期的に起きてきた1年を考えると、その度にロックダウン(都市封鎖)を行うのでは、経済活動は著しく制限され、そのダメージも深刻化している実情は世界中同じです。英政府は、今月から試験的に実施する成人向けのコロナウイルスパスポートスキームの計画を発表しました。

 同パスポートの提示により、スポーツの試合の再開や映画館の再開などの大きなイベントが可能になることが期待されています。英国は欧州連合(EU)と違い、半数の大人が少なくとも1回のワクチン接種を完了しており、政府はパスポートシステム導入で国民の自由度が高まり、経済も活性化すると期待しています。

 具体的にはトライアルイベントが5月中旬まで続き、サッカーのFAカップの準決勝と決勝、リバプールでの野外シネマイベントでも導入する方針といいます。無論、ワクチン接種の対象になっていない子供はこの計画対象にはなっていません。

 英国ではEUと異なり、ワクチンへの不信感が薄いという事情もあり、接種にも積極的な多くの人がワクチンパスポート導入にポジティブと英メディアは伝えています。ところが、EUでの議論で当初から反対派が主張してきたワクチン接種そのものが個人の選択に委ねられているのに、パスポートを支持しない人を締め出すのは差別だという批判が英国でも今、起きているわけです。

 現在、ヨーロッパではワクチン接種したら、それを記録した証明書が発行され、データ化もされています。医療記録は当人のウイルス感染の有無からワクチン接種時期、どの製薬会社のワクチンが接種されたかなどが詳細に記されたもので、物理的カードで受け取るだけでなく、個人のデジタル医療データとして記録されています。

 国によってはスマホのアプリでQRコードを見せれば、データを見ることができたり、パスポートの代わりになったりしています。ワクチンパスポート支持者は、国内での移動や施設利用の安全性確保に非常に有効な方法と主張しています。

 基本的に今のワクチン接種効果は、コロナウイルスに感染したり、感染した場合に重病になるリスクがかなり軽減されることです。すでに最も接種が進んでいるイスラエルで感染者や重症者、死者が急速に減少している例もあります。

 ワクチン接種を受けたことを示すことができれば、多くの人が集まるスポーツ会場や映画館、コンサートホールが安全に使用でき、自由な旅行も可能になるというわけです。結果的に経済の活性化だけでなく、政府が打ち出す行動規制でストレスを抱える国民の精神状態の改善にも繋がるというのがワクチンパスポート導入支持派の意見です。

 さらにウイルスは人から人に感染して拡散していることを考えれば、感染する、させるリスクが低い人から移動や密状態が可能になれば、感染自体を抑え込むことにも繋がるという主張です。

 一方、反対派は、ワクチンパスポート導入は、人々が差別されることにつながる可能性があると主張しています。たとえば、医師や看護師、介護施設のスタッフ、CA、教師が証明書なしには働けなくなる可能性があります。つまり、一部の人々は特定の活動から排除される可能性があるということです。

 それにワクチンを接種できないグループもあります。他の病気でワクチン接種が命を危険に晒す人もいます。現時点では子供たちもワクチン接種対象外です。

 今後、さまざまなイベントやサービスを受ける上でパスポートの提示が義務化されれば、ワクチン接種していない人は排除され、公平さが失われます。基本的にワクチン接種は権威主義の国を除き、世界のほとんどの国で任意です。個人の意思を尊重するとしながら、一方で排除も起きるというのがワクチンパスポート導入のネックになっているわけです。

 東京五輪・パラリンピックでも外国人アスリートの中に個人の選択としてワクチン接種は受けない選手もいるでしょう。彼らは入国もできなければ問題です。裕福な国でないためワクチンが入手できず、接種されない国の選手は参加できなくなります。

 EUでは、ワクチン接種者で陰性であり、あるいは最近ウイルス感染症から回復した人々が地域内を自由に旅行できるようにする、EU全体の「グリーンデジタル証明書」を導入する計画を検討中です。目標は多くの市民が大移動を始める夏のヴァカンスに間に合わすことです。デンマーク、スウェーデン、エストニアは現在、すでに独自のデジタルワクチンパスポートを使用しています。

 解決すべき様々な問題を内包しながらも、世界はワクチンパスポート導入に動いています。ただ、公平性や個人の選択の権利を大切にする欧米諸国で、どこまで普及するのかは疑問も残ります。

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