日本のポスト・コロナのグレート・リセットの鍵を握るテーマの一つに、ハイコンテクスト文化の弊害からの脱却がある。といっても何を言っているのか分からない人も少なくないでしょう。しかし、外から日本を見てきた私にとっては、常識への依存度の高いコンテクスト文化のメリットより、デメリットの方が今は大きいと強く感じます。
われわれが生まれ育った環境で長い時間をかけて自然に身についていった価値観、信念、暗黙のルール、思考様式、感情、習慣、やり方、言語、行動パターン、身体表現などをコンテクスト(文脈)というわけですが、その共通項、つまり共通した体験や情報が多い場合はハイコンテクスト、少ない場合はローコンテクストというわけです。
どこの国も、その国の常識はありますが、その常識への依存度は国や地域によって違います。「常識がないね」「そんな当たり前のことも分からないのか」「まったく、あの反応は理解できない」「どんな常識があるのか知らないが、これがうちのやり方だ」「ちょっと違和感がある」等々、コンテクストの違いは対立や摩擦を起こす原因になります。
人の移動が少ない農耕文化、歴史の古い島国、日本には、日本人同士なら暗黙の了解で意思が通じる常識の共有度が高いハイコンテクスト文化です。専門家の調査でも世界で1,2を争うほどで、その常識は言葉で説明するのが困難で、よくいえば深淵、悪く言えば理解不能な独特の文化です。
あらゆる分野でコミュニケーションが重視される時代にあって、ハイコンテクスト文化は弊害になっています。たとえば口下手な人は一般的に政治家や組織のリーダーにはなれませんが、日本では何を言っているか意味不明な指導者は多く散見されます。
海外で仕事をする日本人が困難を極めるのは、文化の異なる相手に意図が伝わらないことです。某大手自動車メーカーのパリの駐在を終えた部長は、フランス人の部下と信頼関係を構築し、尊敬も勝ち得ていたと思っていたのが、送迎会で「部長のいうことは最後まで半分しか理解できず、苦労した」といわれ、ショックを受けたという話を聞いたことがあります。
彼は流ちょうな英語と中級程度のフランス語ができていたので、言語には自信があったにも関わらず、問題は別にあったようです。実際に会って話してみると、確かに仕事はできそうな優秀な人物でしたが、コミュニケーションスタイルは超日本的でした。
それは相手に対して「分かっているはず」「察してほしい」という期待度が非常に高いことに現れます。部下は上司に忖度して、何もいわなくても要求した仕事ができるようになって一人前という態度だったわけです。それは異文化では通じません。
無論、ハイコンテクストにはメリットもあります。それは最小限の言葉で意図が伝わる効率性で、いちいち常識をすり合わせる必要がないからです。スピード感も確保できます。しかし、本当に理解しているのか、納得しているのかは別問題です。つまり、デメリットは誤解のリスクが放置されやすいことです。
それに今は、違うコンテクストとの遭遇で新しい物の見方、考え方が得られ、自分の世界が広がり、豊かさと楽しさが加わるダイバーシティ時代です。共通性の高いコンテクストの中で生きるのは居心地がいい反面、改善や改革には向きません。
ハイコンテクストは人間関係にも大きな影響を与えています。汚職など不正行為が起きる背景にズブズブの人間関係があります。これもハイコンテクストがもたらす弊害です。談合などはその典型で暗黙の了解で動く世界です。政治にもつきもので、特にハイコンテクストのアジア地域にみられる現象です。
それと人事にも非常に強い影響を与えています。「彼は事情がよく分かっているから」というのが昇進の根拠になっていたりします。逆に事情の分からないよそ者は煙たがられます。仕事のスキルより、事情通であるかが問われるのも日本独特の人事慣習です。
ハイコンテクストでは情報共有ではなく、状況共有している場合が多く、情報は変わりませんが状況は日々刻々変化します。日本で会議が多いのは情報共有ではなく、状況共有しようとしているためです。理由はある状況に対してもたらす結論は一つしかないと考えているからです。
しかし、実際は人の受け止め方は様々で、状況共有しても情報共有には繋がらないことの方が多いのが現実です。事情通が必ずしも適材適所の人事に繋がるとは限りません。転職はなおさらで本人のスキルより事情への理解度が優先されれば、転職は困難になります。
「人はあるがままの世界を見ているのではなく、自分のあるがままに世界を見ている場合が多い」といわれます。
ユニークな発想が求められ、ダイバーシティ効果が注目される中、ハイコンテクストは足かせになることが多いということです。ただ、常識への依存度という場合、その常識に普遍性があれば、問題は生じにくいのも確かです。なぜなら普遍性は誰にでも通じる常識だからです。
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