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 米国でトランプ氏が大統領選で敗北したのを見て、同じビジネスマン出身のフランスのマクロン大統領はどう思っているのでしょうか。

 親子ほど違う年齢差の2人の大統領ですが、大統領選を1年後に控えたマクロン氏にとって、コロナ禍を脱却できず、最大の課題の高い失業率も抑えられず、テロの再燃も気になる中、命運は尽きようとしているのでしょうか。

 ビジネスマン出身者でしかも1度も国政選挙を経験したことのないままに大統領職に就いたトランプ氏とマクロン氏は、いびつな形で進んだグローバリズムへの危機感から生まれた大統領でした。トランプ氏は政治エリートの特権的で閉鎖的なホワイトハウスを変えることが期待されました。

 4年間で世界的に最も大きな盛況を与えたのは、国益重視の自国第一主義とともに、世界支配を画策する中国を最大の脅威としたことでした。

 オバマ政権の8年間で「忍耐的戦略外交」といえばプロ的で聞こえがいいのですが、実は何もしない外交で中国は着々と違法な手法を駆使し、実力を蓄え、ロシアやイランは密かに軍事力を強化していたのを明らかにしたのがトランプ前大統領でした。

 対中強硬政策はトランプ政権時代には超党派で取り組んできた流れがあり、バイデン政権にも受け継がれています。手遅れかもしれない中国の台頭を抑えられるのはアメリカしかなく、反対する者は逮捕し、拷問し、ジェノサイトも辞さない独裁権威主義が世界を席巻する状況回避に米国が先頭に立った功績は大きいといわざるを得ません。

 日本のメディアはあまり指摘しませんが、中国は共産主義を完全に捨てたわけではなく、今も中国共産党の一党独裁国家であり、その本質は唯物論です。

 共産主義革命でどうして多くの死者が出るかといえば、人間は死ねば土に帰るだけの「物」でしかなく、反対する者を殺処分しても大したことではないと考えられているからです。人権の欠片もありません。その本性が香港や新疆ウイグル族に対しても出ているといえます。

 つまり、トランプ氏は、人間にとって普遍性のない価値観で世界支配を画策する中国の脅威を鮮明にし、本腰を入れて対処しようとした最初の米大統領でした。その意味で歴史に残る人物だと私は考えています。

 一方、今や世界にあまり影響力もなくなったマクロン氏はどうなのか。フランスでは大統領は国家の威信を表す外交が主で、内政は首相が行うという暗黙の了解がある国です。マクロン氏は外交といっても欧州連合(EU)をドイツとともにけん引するくらいで、決定的な外交得点は見当たらず、おまけにコロナ対策が後手後手で批判されています。

 マクロン氏の功績は歴代大統領が改革できなかった労働法の改正や国鉄改革ですが、実際に采配を振るったのはフィリップ前首相で、首相の方が大統領より支持率は高くなりました。経済優先で失業率を減らしたことも歴代大統領ができなかったことですが、コロナで苦戦状態に陥りました。

 それよりも意思決定の仕方が、もともとヨーロッパで最も中央集権的なフランスで「決めるのは私だ」を連発し、上から目線で次々に改革を実行したことで評価を落としました。ナポレオン皇帝やローマ皇帝に例えられるほど独裁的といわれています。

 しかし、ナポレオンの功績はあまりにも大きく、まさに歴史を変えた人物です。彼は革命後の帝政のトップに立ち、革命の波が押し寄せることを恐れた君主制の国の攻撃を跳ね返し、さらには革命後の人権宣言に則り、世界の民法の見本となったナポレオン法典を書きました。

 ナポレオン没後200年の今年、ナポレオンが奴隷制度を復活させ、民法で女性差別を行ったと批判されていますが、ナポレオンの出現でヨーロッパの君主制は崩壊し、王侯貴族の特権階級が既得権益をむさぼる時代を終わらせました。リーダーシップ、法の支配にも功績を残した人物です。

 マクロン氏がどんなに皇帝ぶってみても、歴史を根底から変える大統領には程遠いのが現状です。在任中にブレグジットが指導したのもマイナスです。得意な経済分野で経済だけはよくなったという次元でもありません。

 その意味で次期大統領選で勝つためには、余程の得点が必要です。若さと年上の教師と不倫して獲得した妻がいる今風だけでは再選は難しいでしょう。それに自分の部下だったフィリップ前首相の立候補を気になるところです。

 奇しくも同時代に登場したビジネスマン出身で国政選挙の経験もない2人の大統領は、1人は1期で退場となり、マクロン氏も危機的状況かもしれません。ただ2人にとって最大の悲運はコロナ禍であることは確かといえます。

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