GAFAM

 米アマゾン・ドット・コムは、欧州連合(EU)が命じた2億5,000万ユーロ(約330億円)の追徴課税の取り消しを求めた訴えで勝訴しました。EUはルクセンブルクが世界的大手企業の誘致で不当な優遇措置を与えた疑惑で訴えていたわけですが、アイルランド、オランダでも同様な疑惑への取り締まりに長年力を入れてきました。

 有名なのはアイルランドで、極端な税優遇を行った結果、アマゾンのみならず、グーグルなどのグローバルIT企業がアイルランドに欧州本社を置き、他の欧州加盟国であげた利益に対する税金を各国で支払わず、税率が最も低いアイルランドで納税している問題に対して、EUは長年戦ってきました。

 EU一般裁判所は12日、ルクセンブルクの税当局が国家補助規制に反してアマゾンに特別な待遇を与えていた事実について原告側のEU当局は証明できなかったとの判断を下しました。コロナ禍で莫大な利益を得ているアマゾンにとっては歓迎すべき判決ですが、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、EU側は上訴の構えなのに加え、結果的にはアマゾンに逆効果ではと指摘しています。

 一つはEUレベルでGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)に対して厳しい措置が取れないことが明確になれば、舞台は国際的な法人税のルールを抜本的に見直す作業を行っている経済協力開発機構(OECD)のプロジェクトに移され、夏までの合意を確実なものにする力が働き、巨大グローバルIT企業は結果的により高額な課税を強いられる可能性が高いとWSJは指摘しています。

 さらに米バイデン政権はコロナ禍からの復興に莫大な資金投入を決めており、その財源として大企業、特にコロナ禍でも利益を出しているGAFAMへの増税を行うとしています。その結果、GAFAMは国内外で高率の税制が科されることが、より確実になるというのがWSJの分析です。

 実はフランスはEUが躊躇するIT企業に対してデジタル課税を導入する急先鋒に立っています。ところが、あのIT企業を嫌うトランプ前政権は、デジタル課税は米IT企業を標的としているとして、フランスからのワインなどの輸入品に効率の輸入税を課す報復措置をちらつかせ、実施を阻止してきた経緯があります。

 IT企業の仲のいいバイデン政権は、今の流れでは経済復興でGAFAMに増税を貸し、OECDのルール作りにトランプ政権から一転して積極姿勢を示していることから、今回裁判で勝訴したアマゾンを含め、国際的なルール面でGAFAMを追い詰める方針が確実になったともいえます。

 興味深いのは、自国第一主義を掲げたトランプ氏は、たとえ自分を支持しないGAFAMやウォールストリートの金融業界に対しても、米国経済を守るためには海外で戦う姿勢を鮮明にしてきたのに対して、バイデン的社会主義では民主党がめざす「大きな政府」のために企業活動に圧力が加えられていることです。

 結果的にトランプ政権で築いた強い米国経済が、政策面の変更で減速する可能性もあります。今はバイデン政権にGAFAも協力的ですが、台頭する中国企業との戦いで劣勢に立たされるようなことがあれば、彼らも危機に陥る可能性があるということです。

 世界中がコロナショックからの経済回復に向け、財源確保が課題になっており、様々な形での増税が予想されています。政府は支持率が落ちる増税を容易に口にはしませんが、財源が枯渇する状況は、今後数年、税収が本来の基準に戻るまで続くでしょう。そんな中、GAFAMは政府の財源確保の格好のターゲットと言えるでしょう。