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 エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる自画像 エルミタージュ美術館蔵

 聞くところによると日本の美術大学は近年、女子学生の数が男子学生を圧倒している一方、教員数では男性教員が女性教員よりはるかに多いそうです。背景に美術では就職が難しく、食べていけないとの理由で男子学生が敬遠しているという指摘もあるようです。特にファインアートの世界は如実です。

 一方、美術館が所有する作品数では、男性作家による作品が圧倒的で美術の世界のジェンダーアンバランスは以前から指摘されています。結果から言えば女性作家の市場は圧倒的に小さいのに、女性の方が多く美術に取り組んでいる実情があり、今後、増える女性作家が職業画家として、どこまで市場を切り開けるかが課題です。

 西洋美術史の中で女性画家の存在は、20世紀初頭にマリー・ローランサンの登場が初めてと見られがちですが、実は18世紀から19世紀初頭に実力のある女性画家が活躍していたことは、あまり知られていません。そのことをフランス元老院(セナ)が所有するパリのリュクサンブール美術館で「女性画家、1780年‐1830年」展(8月28日まで)として開催されています。

 フランスは新型コロナウイルスの感染抑制のロックダウン(都市封鎖)で美術館、博物館も昨年10月末から閉館されていました。5月19日にようやく厳しい公衆衛生上の条件付きで開館されました。その間、多くの美術館は改修工事を実施し、ピカピカの美術館で眠ていた優れた名品が展示されています。

 リュクサンブール美術館は元老院が国立美術館協会に運営を委託していることもあり、過去の展覧会はフランスにとって重要な意味を持つテーマに限られています。今回は女性の社会的地位や権利向上が政治的に注目される中、選ばれたテーマだと想像できます。

 同展の副題には「闘いの起源」とあるように、19世紀末から登場した女性画家たちの背後にフランス大革命前夜のアンシャンレジーム期から女性画家の闘いが始まっていたという視点で展覧会は企画されています。

 そこで日頃はあまり光が当たらない当時の女性画家たちの作品や人生に触れることで、彼らの実力が男性と変わらないことを再認識させる狙いもあると思われます。アンシャンレジームの最後の数十年間、女性画家は前例のない注目と王室画家を仕切る男性画家界の強い抵抗の中にあったことが記録されています。

 中でも国王ルイ16世の王妃マリーアントワネットの肖像画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの存在は女性画家たちに道を切り開ていくれた開拓の先駆者でした。美貌で知られる彼女のたぐいまれな才能は、男性で占められる王立美術アカデミーに衝撃を与えた一方、父親を早くに亡くし、母や妹を養っていくために画商と結婚し画家を続けた人物です。

 革命後、マリーアントワネットに近すぎる存在だったために国外逃亡し、イタリアやロシアで画家として人気を集め、フランス新政府が革命分子のリストから彼女を外したことで、ようやく帰国しています。その後、貴族志向のナポレオン皇帝のもとで皇帝の家族を描く画家になりました。

 女性というハンディを抱えながら、なおかつ革命の嵐に巻き込まれ、命も危ない中、画家を続けた波乱万丈の人生の絵画への情熱と強い闘志を感じざるを得ません。

 大革命自体は男が主導してもので、人権宣言にも女性には言及がなく、ナポレオン法典でも女性は男性の下に位置付けられていました。ましてアンシャンレジーム期はカトリックの宗教的縛りもあり、女性が男性の裸体を描くことも禁止され、女性による聖画も疑問視され、女性画家たちは描けるジャンルが制限されていたといいます。

 しかし、革命前夜に頭角を現した女性画家たちの才能を前に、閉鎖的な美術界の男性たちも女性画家を対等な競争相手と見るようになったといいます。同展覧会のハイライトは女性が貢献した肖像画の進化です。肖像画を描くことを許された彼らの多くは、自画像も含め積極的に描いています。

 同時に彼あの描いた肖像画の多くは女性でした。女性でしか分からない細かな日常生活が描き込まれ、今となっては当時の生活を垣間見るものともなっています。今回の展覧会で扱われた1830年は、フランスが一挙に近代化し、自由な気風が高まり、女性も活躍しやすくなる時代の前夜でした。

 エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの墓石には「ようやく休むことができる」と彫られているそうです。彼女の闘いは想像を絶していたことでしょう。未だに芸術の世界のジェンダーアンバランスはありますが、21世紀は女性の感性が芸術を豊かにし、進化させる原動力になることを期待したいと思います。

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