米ハーバードビジネスレビュー(HBR)によると、マイクロソフトでは今年2021年に入り、「2020年初頭から仕事の性質がどのように変化してきたか」について50以上の調査を実施したそうです。コロナ禍でリモ−トワークが導入される中、働き方、生産性などの課題を調査、分析するのが目的です。
同調査では、世界31カ国の3万人以上を含むビジネスに関わるメール、ミーティング、チャット、投稿など、生産性に繋がるシグナル数兆件の分析を行い、結果的に最大かつ最も憂慮すべき変化の一つは、全面的なリモートワークとなった1年間が、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の基盤である人と組織のつながりに大きな影響を与えたことだとしています。
つまり、多くの人々が仕事の要の一つとされるソーシャルキャピタルの低下を感じ、孤立感が増したことが明らかになりました。その原因の一つは、職場でのインフォーマルな交流がなくなったことだとしています。すなわち、リモートワークへの移行は人々のネットワークを縮小させているというわけです。
HBRは具体的には、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった当初は、親密なネットワークの交流が増える一方で、疎遠なネットワークの交流は減り、やがてロックダウンに突入すると、ふだんから会っている人とのつながりを重視するようになり、それ以外の関係は希薄になったとしています。
近年、ビジネスの世界は業務が複雑化し、チームで業務をこなすことが当たり前になる中、日本のNHKのビジネスマンに対する最近の調査でも、リモートワークで最も影響を受けたのはチームワークだとしています。この点では欧米も日本も個人主義か集団主義かの国民性の違いは関係ないようです。
在宅勤務は社内の人と人との関係であるソーシャルキャピタルを弱めた点は明白で、当然、生産性にも影響を与えています。無論、在宅勤務の歴史は浅いし、職種によって成果に影響を与える度合いは様々です。
ソーシャルキャピタルは組織と人の関係です。組織との関係の要は上司と関係ですが、たとえばマネジメントの世界では、職場でうろうろしながら声がけするウォーキングマネジメントが有効とされてきました。前日の仕事について「Good Job!」などと声がけすることが部下の励みになるという話です。これをリモートでも継続するのは容易ではありません。
それに日本では上司の顔色を伺いながら仕事をするのが当たり前でしたが、リモートワークでは日常的に顔色を伺うことはできません。職場の空気を読んで仕事をすることもなくなり、日本独特の進捗管理方法である報連相も簡単な相談でも手間がかかり、相談しなくなったという話もよく聞きます。
HBRは「ソーシャルキャピタルは、従業員と組織の双方にとって成功している職場がさらに発展するために不可欠なものだ。知識や情報の流れを促進し、新しいアイデアを刺激して、私たちの思考を活性化させる。さらに、欠勤率や離職率の低下、組織のパフォーマンスの向上にも貢献する」と定義づけています。
確かにリモートワークに移行してから、多くの企業が特に新入社員のスキルアップに影響を与えたことを認めており、職場にいれば、先輩が簡単にアドバイスしたり、教えたりする機会が減少し、結果的に多くの企業が業務の習得だけでなく、他者との協業、ブレインストーミング、革新的なアイデアの提案など、イノベーションにつながることで成果を出せなくなったことを認めています。
今年に入り、世界中の多くの企業が会議の頻度と費やす時間が過去にないレベルで増えていることが明らかになりました。この会議は大きな課題です。個人が抱える仕事量の圧力の中で会議に費やされる時間が生産的かどうかという点では多くの従業員が疑問に思っているはずです。
今後は職場と在宅のハイブリットの働き方が増えるのは確実です。日本の場合は「落としどころを探る」意思決定の文化があるので、対面会議で空気を読むことが重要でしたが、それも困難になっています。最近では異なる部署や部外者を交えた会議で会議を活性化し、有意義なものにしている企業も増えているといいます。
組織の見える化、誰もが自由に発言できる風通しの良さ、透明性を高めることの重要性に変わりはありません。これまではリーダーが定期的に部下を連れて居酒屋に行って人間関係を深めたかもしれませんが、在宅で距離があれば別の方法を考える必要があります。
米国では、在宅勤務をしながら、いかにして気軽な世間話やおしゃべりを自然に発生させることができるかが重視されつつあります。その雑談がリモートワークでなくなったことを歓迎する人もいます。時間の無駄と考えていた人たちです。
一方、雑談の中に新しい発見があり、働く意欲を増す効果があると考えてきた人も少なくないでしょう。企業の中にはチームワークに「バーチャルラウンジ」を設け、チームがオンラインで定期的にコーヒータイムやトリビアクイズ大会、ハッピーアワーなどを開催して、交流できるようにする試みを実施したりしています。
HBRは、リモートワークをしている世界中のプロフェッショナル500人を対象に、フランスのビジネススクール、INSEADが実施した最近の調査によれば、新たなバーチャル環境で成功しているチームは、クイズ大会や共有するプレイリストに関する集まり、読書会、映画クラブといった交流会を正式な行事として開催していることを紹介しています。
リモートワークのメリット、デメリットが、この1年でかなり出てきたわけですが、さらに分析し、何を改善すべきかを考える入り口に立っているレベルだと思います。
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