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 米税関・国境警備局(CBP)が今月19日、ファーストリテイリングが運営する衣料品店「ユニクロ」製シャツをロサンゼルス港で差し止めていたことが明らかになりました。差し止め理由は、中国・新疆ウイグル自治区の強制労働をめぐる輸入禁止措置に違反したとされたからです。

 米国の対中政策は、バイデン政権になって人権外交に重点が置かれるようになり、少数民族ウイグル族に対する人権侵害を「ジェノサイド(集団虐殺)」と見なす米政府は、ウイグル族の強制労働が疑われる企業の製品に対して輸入禁止措置を適応するなど、厳しい姿勢を鮮明にしています。

 CBPの公開文書からすると、この措置はバイデン政権で新たに導入されたわけではなく、米税関はトランプ前政権時の1月5日、中国共産党の傘下組織でウイグル綿花の主要生産団体である「新疆生産建設兵団(XPCC)」が原材料の生産に関わった疑いがあるとして、ユニクロ製品を押収した経緯があることも判明しました。

 トランプ前政権は昨年12月に、強制労働を理由にXPCCが生産に関わる綿製品の輸入禁止を実施しており、ユニクロは3月末、対象製品の原材料は中国やXPCCと無関係だと反論する手続きを行った一方、CBPは証拠不十分で却下しました。理由は「生産、加工、処理の記録が未提出」「関係者や工場の場所が不明」ということでした。

 フランスのNGOなどから強制労働の恩恵を受けているとして告発され、ファーストリテイリングが生産過程を公表しない不誠実さを訴えられています。無論、同問題はユニクロ製品だけでなく、日系企業を含め、多くの欧米企業、グローバル企業に同じ指摘がされています。

 昨年3月、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が「ウイグル人が売りに出ている」という内容の報告書を公表し、報告書に掲載されたグローバル企業83社には、アディダス、ナイキ、ギャップ、ゼネラルモーターズ(GM)、BMW、メルセデス・ベンツ、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アップルなど、日本企業は、ファーストリテイリングだけでなく、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、任天堂、パナソニック、ソニーなど大企業が勢ぞろいしていました。

 各企業の国際弁護士のアドバイスは、想像するに非政府組織の国際人権団体NGOの批判に対しては、本腰を入れて対応する必要はないということで「事実ではない」程度の声明を出すにとどめているべきとしている可能性もあるでしょう。

 今ではグローバル企業が隠蔽されている不都合な事実を材料に企業を恐喝して金を撮る商売が横行している時代です。しかし、ポストコロナでは人権弾圧、強制労働などの行為は国際世論の厳しい批判に晒される可能性が高まっています。

 そもそも新疆ウイグル自治区の強制収容所の存在を映像として世界に紹介したのは英BBCで、詳細な取材は米ウォールストリートジャーナルが行いました。両社ともに現地で取材に当たった記者たちは国外追放されましたが、人権NGOなどより、はるかにインパクトがあり、客観性や正確さも担保されており、欧米政府の対中政策転換に大きな影響を与えています。

 個人的にいくつかの国際的評価を受けるメディアの記者と取材先で遭遇したことがありますが、米タイムマガジンの記者の背後に取材に費やす潤沢な資金と有能なスタッフ、多岐に当たる情報源に驚かされたことがあります。ある記者は特定のテーマで世界中を取材し、1年に3回記事を書けばいいといっていました。

 そういえば、台湾に本社を置き、中国で事業を展開しているiPhone・Mac・iPadその他コンポーネントを製造しているサプライヤー、ペガトロンが昨年、中国で何千人もの学生インターンに違法就労させ、iPhoneの組み立てを行わせていたことを報じたのは、英フィナンシャルタイムズでした。Appleは報道を受け、2020年11月9日(月)付でペガトロンへの新規事業の発注を一時停止しました。

 iPhoneを巡っては、製造を請け負うEMS(電子機器受託製造サービス)世界最大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の中国製造子会社フォックスコンで、2016年に工員の飛び降り自殺したことを報じたのは米ウォールストリートジャーナルでした。理由は過重労働だったそうですが、同工場の自殺者は最初ではありませんでした。

 Appleはフィナンシャルタイムズの報道を受け、現場責任者を解雇したそうですが、当然、米企業が海外で違法な強制就労を黙認し、生産性をあげているとすれば、米政府が見逃すことはあり得ません。現場のせいにしてお茶を濁そうとしても、もっと大規模な政府レベルの制裁もあり得ます。

 人権問題が敏感になる中、黒人差別、性差別、LGBT差別、少数民族弾圧、強制労働などは、ますます世界中の人々が注視するようになり、それはビジネスにかなりの影響を与えています。これらの問題には一つの答がない場合もあるから厄介です。

 たとえばユニクロがLGBTを支持するような女性同棲カップルをテーマにしたコマーシャルを流せば、宗教的にLGBTを否定する個人や団体から批判も受けます。「世の中の流れ」とやり過ごせないテーマもあります。企業は自社のアイデンティティを明確にすることを迫られています。

 今後、アメリカだけでなく、ヨーロッパでもウイグル問題に絡んだ企業製品への不買運動や排外運動が加速する可能性は極めて高いといえます。欧州議会は、昨年欧州委員会が中国との間で大枠合意した投資協定を凍結する決議を行いました。日系企業も人権問題を軽く見ると大やけどを負う時代に入ったことを認識すべきでしょう。

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