欧州連合(EU)は7月1日より、ワクチン接種などを証明するEUデジタル新型コロナウイルス証明書(通称Covid -19パスポート)を導入する方針を明らかにしました。25日、ブリュッセルで首脳会議を開き合意し、今後、欧州議会で承認されれば正式運用となります。
同証明書のポイントは3点でワクチン接種の完了、PCR検査の陰性、過去に新型コロナウイルスに感染し回復したことの有無を証明するものです。QRコード形式の証明書でスマートフォンのアプリの他、紙での証明書も可能としています。6月中旬にはシステムが構築される予定です。
コロナパスポートの目的は、夏の長期ヴァカンスに入る時期をめざし、安全で自由な移動を促進することです。当局は、これは自由な移動の権利を行使するための前提条件ではなく、渡航文書でもない、と当局者は付け加えています。
同パスポート導入については慎重論も多く、ワクチンを受けたくない人間、国によってワクチン接種が完了できない人々にとっては不平等だという意見や、健康記録の詳細や移動行動記録といった個人情報が保護されなくなるといった懸念もありました。
ポルトガルのアントニオコスタ首相は「この夏から、すべてのヨーロッパ人の自由な移動が容易になる」と述べています。証明書の法的枠組みは、3月に欧州委員会によって提出された2つのカテゴリーで構成されています。1つはEU市民とその家族に関するものであり、2つ目の提案は対象をシェンゲン協定地域に合法的に滞在または居住している第3国国民に関するものでした。
結果的にEU全27か国とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスも対象に加えられました。さらに同パスポートはグローバルに開発されたもので、もし、域外の国々の中で認証されれば、域外でも使用が可能になるとしてしています。
そのため、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、「EU Digital Covid-19証明書で合意に達したことを歓迎する」「この新しい証明書は、海外旅行の移動規制を解除し、ヨーロッパ内外で数千の企業と数百万の仕事を節約するための鍵となる可能性がある」と歓迎しています。
WTTCによれば、世界中の観光部門で働く人々の中で、少なくとも6200万人が職を失ったとしています。そのため、今年の夏の観光業の復活にコロナパスポートは大きな起爆剤になると期待されています。
ただ、ワクチン接種が完全に終了していても、PCR検査で陰性、あるいは抗体検査で感染後に抗体ができていることが確認されたとしても、医学的にはそれでも無感染、あるいは感染する可能性がゼロというわけではないし、変異株への対処は未知なものもあります。
そのため、クラスター(集団感染)が起きた場合などにEUは規制措置緩和に急ブレーキをかけるオプションも準備しています。ヨーロッパ全体は規制解除の方向に動いていますが、フランスの専門家の中には規制解除は自殺行為と警告する人もいます。
コロナパスポート導入に拍車をかけたのはEUを離脱し、ワクチン接種が圧倒的に進んでいる英国で4月、コロナパスポートに関するテストが行われたことも大きいといわれています。とにかく移動制限や封鎖措置で経済活動が抑えられた状況を1日にも早く脱することは世界中の希望です。
そこで思うことは、7月に開催される東京五輪・パラリンピックに向け、政府が外国からの入国者に課している様々な条件がありますが、日本がインバウンドに向け、新たなパスポートシステムを開発していれば、テストケースとして世界中が注目するということです。
すでに外国からの感染者を入れないとしていますが、アスリートは隔離できたとしても、入国できる大会関係者の行動監視は困難と見られています。ならば定期的なPCR検査も含め、デジタル化されたパスポートシステムを導入し、様々な実験を行い、今後に繋げていく絶好のチャンスでしょう。
そのシステムが世界標準になることをめざすくらいの心意気はあるのでしょうか。その実態はどうなっているか分かりませんが、大会の成功は当然のこととしても、今後の世界の経済活動促進に役に立つシステム開発を行えば、その知見はグローバルスタンダード作りに貢献するのは確実です。
ブログ内関連記事
ワクチン接種で浮上の総合診療医 他の先進国にあって日本にないプライマリケア制度
英国のコロナ対策成功例 時限立法も決断できない日本政府の国民の良識への甘えの結末
英国でワクチンパスポート試験導入 70人の政治家反対でさらなる検討が急がれる
EU旅行規制緩和で観光に期待 インバウンド経済効果に熱い視線だが緊急ブレーキも

コメント