世界4大会計事務所・コンサルティングファームの一角を占めるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が発表した調査レポート「世界の消費者意識調査2021−世界の消費者を分ける4つの境界線」は、コロナ禍後の世界の消費者動向を知る上で参考になる一方、何がビジネストレンドになり、何をすべきかは、かなり熟慮が必要な印象を受けました。
1つ確実なことは、コロナ禍が消費者の動向を大きく「違う方向に変化」させたというよりは、むしろ、この数年間、着実に進んできた「変化の加速」が認められたことでしょう。1つはライフワークバランスを重視した働き方の変化がもたらす消費の在り方の変化です。
コロナ禍でリモートワークは増えましたが、IT企業を中心に同じ場所に社員全員が集まって仕事をするスタイルを変えることは、コロナ以前から進んでいました。そのため、コロナ終息後も流れは変わらないでしょう。むしろ、欧州連合(EU)は少子化対策、地方分権推進でリモートワークを鍵と位置付け、通信インフラ、交通インフラの整備の方針を明確化しています。
消費という意味では、結果的に実店舗の利用率は減少傾向にあり、同時に今回の調査では、サステナビリティに対する意識が高まり、特にアジア太平洋地域が欧米以上に高く、さらにはリモートワーク中心の消費者は環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する傾向が強まっていることが指摘されています。
2番目の変化の加速は、リモートワークに転じた人々、若い世代ほど週1回程度のまとめ買いやオンラインショッピングに消費習慣がシフトし、同時に環境問題への意識が高く、若い世代ほど日常生活必需品以外の旅行、ファッション、外食などへの消費が増える傾向にあるということで、ワークよりライフの充実に意識が向かっていることが見て取れます。
3番目は、 コロナ禍で安全・衛生に対する意識が高まったことから、一部の消費者の購買行動が変化し、実店舗での購買でも回答者の23%が「安全・衛生対策の強化」を1番目または2番目に挙げており、むしろ、オンラインでの買い物に安心感を見出す傾向があるとしています。
4番目は、多少興味深いのですが、もともと欧米より消費頻度が高いアジア太平洋地域の消費者は、サステナビリティやESGに対する意識が欧米より高い一方、実店舗の安全・衛生対策への関心は低いということです。
たとえば、日本を含むアジアで、買い物頻度が高い理由の一つは、まとめ買いした物と保管方法や保管スぺースの関係が想像されます。欧米では週末の大型ショッピングモールなどで買い物し、大型冷蔵庫や冷凍庫に保管するライフスタイルが定着していますが、アジアにはありません。計画性、合理性、弥陀を省くことを重視の欧米との違いも大きいでしょう。
これは住宅事情の改善、保管能力の向上とともに変わる可能性があり、コロナ禍後は加速することも予想されます。ワークからライフ重視へのシフトは今後も継続することでしょう。コロナ禍の終息は深刻なダメージをうけた旅行業や飲食業の復活エンジンにもなりそうです。
安全衛生への投資は、官民挙げて否が応でも対応せざるを得ないことから、消費に大きな影響を与え、同時にアジア太平洋地域で高まるサステナビリティやESGは消費傾向にさらに影響を与えることでしょう。日本は官民挙げてそのけん引役になるべきと思います。
多くの企業が異業種と協力し、新たなライフ提案をトータルに行う時代、長期戦略を立てやすい日本企業は、遠い未来を見据えた画期的なライフ提案を行える人材と体制づくりが急がれるといえそうです。その鍵を握るのは「人間にとっていいものとは何か」という普遍性を追求する発想です。同時にスケールの大きな人材が今ほど求められる時代はないと思います。
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