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 新型コロナウイルスのワクチン接種が頭打ちの国が多い中、パキスタンは接種を拒否する国民に対し、携帯電話の接続遮断や給与差し止めなど当局がさまざまな罰則を科す方針を打ち出しています。接種を施すための商品券配布などインセンティブを与える例とは真逆の方法です。

 コロナ対策で世界中の国々が国民の行動の自由、選択の自由をどこまで制限できるのか葛藤しています。これが戦争でミサイルが飛んできたり、空爆が行われれば、国民は行動制限を守ることを当然と受け止めるのに対して、目に見えないウイルスという敵との戦いではそうはいかないことを、1年以上続くコロナ禍から学びました。

 しかし、コロナ禍は改めて「自由」のついて考えさせられるきっかけを作ったともいえます。正確な統計は出すには早計ですが、アメリカ、英国、フランス、イタリアなど自由と民主主義を基本的価値観とする国々の累計感染者数、死者数は非常に多いことが目につきます。

 一方、独裁国家、社会主義国家、イスラム教国家など自由や民主主義とは相いれない権力の集中した国々は、迅速に感染を抑えられた例も散見されます。特に中国は感染拡大も世界で最も早かった一方、抑止も迅速で、なんと空の移動のための旅客機の飛行量は、今はコロナ禍前を上回っており、経済復興の速さを印象付けています。

 フランスは6月中旬時点で累計580万人を超える人々が感染し、死者は12万人に上っています。今は厳しい外出制限措置も解除され、多くの人々が解放感に浸っていますが、11万人の命は戻ってこないし、感染後遺症の爪痕も残しています。

 昨年2月、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に本格化する中、フランスは隣国イタリアで感染が広がり、感染の脅威が迫っていました。ところがマクロン大統領は、中国や韓国で強権を行使して国民の自由の権利を制限する対策に乗り出したことを当初軽蔑していました。

 マクロン氏は「北東アジアの人間は自由の価値が分かっていない」「遅れた独裁国家の野蛮な行動だ」と明らかにアジア人差別に繋がる、いつもの上から目線の発言を繰り返しました。国民の行動をGPSや監視カメラで追跡し、外出禁止を守らない市民を逮捕するなどの行為を見ての発言でした。

 自分たち西洋文明国では「あんな野蛮な対策を取らずに感染は抑えられる」と鷹をくくっていました。リヨンで昨年3月上旬に開催されたフランスVSイタリアのサッカーの試合では、イタリア人のサポーターに対して何のチェックもなく入国を許していました。

 やがて事態の深刻さに気付いたマクロン氏は「これは有事だ」と国会で演説し、3月下旬にはロックダウン(都市封鎖)を開始しましたが、時すでに遅しでした。フランスはイタリア同様、大量の中国人観光客を受け入れてきた経緯があり、中国での感染拡大が公式に発表される数か月前からコロナウイルスは持ち込まれていたことが最近判明しました。

 マクロン大統領はその後何度も専門家の意見を無視して、今年1月には再度のロックダウンを専門家が進言したにもかかわらず、従わず、感染は拡大を続け、4月に8万人の新規感染者を記録しました。結局、国民の自由を奪うコロナ対策は常態化し、ようやくワクチン効果で規制は解除されました。

 しかし、その間、マクロン氏は挫折を味わい、国民も個人の自由を優先するリスクを痛感し、良識的なフランス人は、Withコロナの時代に入り、根底から変わったといえるかもしれません。

 大革命でに自由を獲得した強いプライドを持つフランスにとっては屈辱的状況といえます。観念的な自由主義は新型コロナウイルスの感染拡大には何の役にも立ちませんでした。マスク着用はウイルスを他の人に移さないためでしたが、利己主義の個人主義者には受け入れられませんでした。

 自由主義が公衆衛生上の危機では弱いことが露呈した今、自由の中身を再考する時が来ているといえるかもしれません。個人の自由意思を尊重するあまり、身勝手な行動を許す利己主義に陥った西洋社会は感染阻止で必要な公益性が機能しなかったのは事実です。

 個人主義がいつしか利己主義に落ちてしまった西洋文明は、G7でアジアを上から目線で見て、帝国主義時代やソ連の脅威に対抗する環大西洋同盟の再構築を強調していますが、時代錯誤も甚だしいといえるかもしれません。少なくともコロナ禍では自由主義の限界が露わになったといえそうです。

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