最近、東洋経済オンラインにも寄稿しましたが、コロナ禍で田舎暮らしを夢見る都会に住むフランス人が増えている話は、日本を含め世界中で同様な現象が起きているようです。私の原稿に「日本と同じだね」とか「週末は別荘以外は日本と同じ」といったコメントをSNSで頂きました。
コロナ禍で「パリ離れ」が加速するフランスのなぜ
フランスの不動産業界の調査では、田舎暮らしをめざす最大の理由は「生活の質向上」、2番目は「ライフワークバランス」です。大自然に囲まれ、澄んだ空気の中で都会の喧騒から解放され、地元でとれた食材を料理し、精神面も肉体面も健康で豊かな生活ができるという「生活の質確保」は、都会生活のデメリット解消の当然の帰結でしょう。
毎日、満員電車に揺られ、年間を通じて膨大な通勤の無駄な時間を過ごすことや、残業で私生活が圧迫されたりするのはワークライフバランスを壊し、職場の人間関係がストレスになるのも出社勤務のデメリットです。
しかし、一般的なリモートワークが可能なビジネスパーソンの今後は、在宅と出勤を組み合わせたハイブリッドな働き方が一般的になりつつあります。子育てでは田舎暮らし、不定期な出勤に備えて都会にも寝るだけのスぺースを確保する住宅2拠点のデュアルライフが一般化しそうです。
都会にとってのメリットは通勤人口の減少で混雑が解消され、車通勤も含めれば、大気汚染の軽減にも繋がるかもしれません。都会はパリもそうですが、仕事と文化、教育が集中しているメリットから若者の流入は続いており、ビジネスでは仕事を習得するために指導が必要なケースでは出社勤務は必須なので、若い従業員は都会にとどまり、高等教育を受ける若者の流入も継続されるでしょう。
教育を受け、仕事を覚え、結婚して子育ての段階に入ると田舎暮らしの在宅勤務のメリットが高まるので、自然にハイブリッド勤務か完全リモートに移行していくでしょう。無論、職種によっては出社勤務しか選択肢のない場合もありますが、生活の質向上、ワークライフバランスの追求は誰もが共通する目標です。
このハイブリッド勤務を支えるのは、デジタル化への移行です。過去にはデジタル化の話もなかった30年以上前の時代から、自営業の場合は在宅が当たり前の職種もありました。私自身も、この30年間はフリーランスでジャーナリストを続け、大学で教鞭をとり、コンサルの仕事をしてきましたが、基本勤務は在宅でした。
そのため、コロナ禍で大きく働き方が変わることもありませんでした。最も変化したのは人が集まる対面の大学の授業や企業研修が激減した一方、リモートが急増したくらいのことでした。専門性の高い翻訳の仕事を長年している友人もコロナ禍での大きな変化はなかったといっています。
在宅勤務のデメリットは自宅での私生活と仕事の完全分離が難しいことです。出社勤務のような物理的な隔離がないので、自宅に仕事場を確保し、妻や子供が入ってくる環境を作らないことです。実際に昨年は在宅勤務経験の浅いビジネスパーソンが私生活に仕事が侵入してきたことで、ストレスを抱えた例は多々聞きました。
ハイブリッド勤務では、仕事面で生産性を高め、成果を出すためにリセットが必要です。出社勤務で上司からのプレッシャーや同僚との競争などの緊張感で仕事をしていたのが、それがなくなると自己管理が難しく、仕事のモチベーションを高める方法も工夫が必要です。
1970年代には社員を職場で働かせるために、上司は働く部下を後ろから監視できる位置に座る配置も流行ったのが日本です。仕事の後に皆で酒を飲みに行くことで働く意欲を高めるのも上司の仕事でした。合理的に生産性を上げるというより、意欲など精神面を管理することに重点が置かれた時代でした。
今は在宅勤務と出社勤務の働き方は生産性についての研究もビジネススクールで急速に研究されており、たとえば、在宅時と出勤時の時間の使い方などの量的指標、達成感や満足感などの質的指標を全て毎日記録し、そこから有効な働き方を分析し改善していくとかです。
目的は自分にとって生産性を最も高めることができる在宅勤務と出社勤務の組み合わせを知ることですが、同時に私生活の質の向上やバランスに繋がっているかも重要です。これらを会社側とともに作り上げていく作業が今後重要になってくることでしょう。
会社側は在宅と出社の両パターン、ハイブリッドな働き方などに対して、報酬面や勤務時間の算出など新たな課題に遭遇しています。田舎暮らしは都会より生活コストは低い面もありますが、ハイブリッドではデュアルライフで二重生活の費用や長距離移動のコストも掛かります。
企業は福利厚生よりも成果主義に傾きつつあり、従業員のライフスタイルより、成果に対して報酬を支払う考え方も強くなり、欧米のように既婚者や子供の数で手当てが出ない考え方も強まっています。いずれにせよ、メリハリの効いた生活によって、創造性を引き出し成果を出せるかが問われています。
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