芸術は、もともと職人の世界だったために、職業としたのは圧倒的に男性が多かった。同時に19 世紀後半、芸術、特に美術の世界は作家が独り歩きを始め、少しづつ女性も活躍するようになった。その代表はフランスでは、おそらくエコール・ド・パリの時代のマリー・ローランサンだろう。
とはいえ、美術界も閉鎖的で女性に解放されていたとは言い難く、弱肉強食で野心に満ちた芸術家が群雄割拠する中で女性が勝ち残るのは容易なことではなかった。日本では今、世界的に認知された草間彌生がいるが、お世話になったニューヨーク在住だった故遊馬正画伯によれば、草間彌生はニューヨークで問題を起こし国外追放になった時、「私は絶対にアメリカに戻ってくる」と電話してきたそうだ。
何が何でも認められるまで諦めないという執念が彼女を今の地位につけたことは否定できない。多くの女性が男性の庇護のもとにある時代に、夫の理解を得、あるいは1人で生計を立てながら芸術の道を追求することは容易なことでないのも事実。
女性差別への意識が高まる中、今年は大改装後のパリのリュクサンブール美術館で夏に「女性画家、1780年‐1830年」展が開催された。同展の副題は「闘いの起源」とあるように、19世紀末から登場した女性画家たちの背後にフランス大革命前夜のアンシャンレジーム期から女性画家の闘いが始まっていたという視点で展覧会は企画された。
中でも国王ルイ16世の王妃マリーアントワネットの肖像画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの存在は女性画家たちに道を切り開ていくれた開拓の先駆者。美貌で知られる彼女のたぐいまれな才能は、男性で占められる王立美術アカデミーに衝撃を与えた一方、父親を早くに亡くし、母や妹を養っていくために画商と結婚し画家を続けた人物だ。
革命後、マリーアントワネットに近すぎる存在だったために国外逃亡し、イタリアやロシアで画家として人気を集め、フランス新政府が革命分子のリストから彼女を外したことで、ようやく帰国し、その後、貴族志向のナポレオン皇帝のもとで皇帝の家族を描く画家になったという数奇な人生を送っている。
女性というハンディを抱えながら、なおかつ革命の嵐に巻き込まれ、命も危ない中、画家を続けた波乱万丈の人生の絵画への情熱と強い闘志を感じざるを得ない。
今年はコロナ禍で閉館中に大改装を行ったルーブル美術館に9月、ルーブル美術館史上、初の女性館長を迎えた。新館長に就任したロランス・デカール氏(54)は、能力、実績、ビジョンにおいて申し分がないと仏メディアは絶賛した。
2018年に史上最多の年間1,000万人の来館者を記録した世界最大規模のルーヴルだが、彼女は「すべての年齢、すべての社会・文化的背景を持つ来館者を迎える美術館にしたい」と意気込みを語っている。
芸術の世界は、早い段階でLGBTは受け入れてきたが、女性になかなか活躍の機会が与えられなかった。今後、眠っていた女性芸術家の作品に光があてられる可能性も高い。今は女性でも自活できる時代、世界の美術界に女性が増えることが期待されている。
ブログ内関連記事
長期閉館のパリの美術館再開 女性画家の知られざる革命前夜からの苦労の足跡展
史上初のルーヴル美術館女性館長はどんな人?世界最大の美術館のトップの現代的ビジョン
ダヴィンチ恐るべしー21世紀にも強烈なメッセージ ルーヴル最多110万人の来館者を記録
フランス女優が投げかける批判はセクハラ議論を深めたのか
コメント