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 フランスの新型コロナウイルスの1日当たりの感染者数は、8日時点で6万人を超え、11月に入ってからの急上昇は止まらない。ドイツはとうとう1日の感染数が9日に10万人を超え、過去最高の上昇が続いている。英国も9日に5万人と上昇が止まらない。

 ワクチン接種完了者は8割から9割、日本よりデジタル化が進み、ワクチンパスポートの普及が進んでいる欧州で何が起きているのか。特に衛生パスポートの普及は、ワクチン接種だけでなく、PCR検査の陰性証明もQRコードで表示されるため、今やレストランからイベント会場、公共交通機関などの移動に活用されている。

 にも関わらず、日本とは比べ物にならない感染者を出し、ワクチン2度接種完了者でも感染する状態が発生している。さらにクリスマスを楽しもうという空気が感じられる。人々は口々に「このコロナ禍は今後も続く」と言いながらも、ワクチン接種する人、しない人が互いに非難することも少なくない。

 有事の際の法整備が整った欧州では、罰則付きのロックダウン(都市封鎖)も何度か行ってきた。つまり、コロナ対策のデジタル化、ワクチン接種普及、法整備のどれをとっても日本に見劣りしないどころか、デジタル化の日本の遅れは水際対策にも露呈し、日本到着後、政府が準備した宿泊施設にたどり着くまでの空港での手続きに10時間拘束された例まで出ている。

 しかし、日本の感染拡大は抑えられている。1年10カ月の欧州のコロナ状況を見て、個人的に感じることは科学的なことでいえば、欧州は欧州連合(EU)域外と域内の国境を封鎖したことがない。域外からEUにどこからか入ってくれば、移動は自由だ。フランスにはアフリカ、中東から連日大量の人が入っている。

 2重国籍を認めているフランスでは、アルジェリア人でもフランス国籍所有者も多く、彼らの入国を拒むことはできない。パリ・ドゴール空港にいけば、このコロナ禍でもアラブ系、黒人系の利用者を山のように見かける。水際対策は非常に難しい。ワクチン接種が進んでいない国からの流入を食い止めるのも限界がある。

 難しいのは水際対策だけではない。どんなに科学的にリスクを管理しようとしても、対象になるのは人間。たとえばレストランだけでなく、最近入ったPCR検査をしてくれる医療検査ラボの入り口では、衛生パスの提示を求められなかった。薬局も同様で決まり上は衛生パス提示は義務だが、調べる側が義務を怠っている。

 今の雰囲気はワクチン接種が進んだから大丈夫という空気が濃厚で、政府の厳しい予防措置の実施は、いくらでも抜け道がある。この前は高速列車TGVにモンパルナス駅から乗ったが、列車を待つ間、係員が衛生パスをチェックし、陰性確認の色のついた紙を腕にまかれたが、込んでくれば、それなしで乗車した客もいた。

 徹底、厳格という言葉はフランス人にも程遠い話だ。大体最近不思議に思うのはイスラム女性が禁止されているはずのスカーフを皆着用していることだ。警察も今は見て見ぬふりで法律では禁止されていても取り締まられていない。フランス人の考えの基本は法が先にあるわけではなく、人の権利が先にあるということで説明がつく。

 お隣のドイツは日本のインテリが大好きな規則重視の国というが、厳格にルールが守られているわけではない。国の強制は過去ナチスドイツ支配下の個人の権利の甚だしい侵害の経験から、実は政府が強気に出れば政権が倒れかねないほど国民は抵抗する。

 そのため、衛生パス導入で個人情報は個人が所有するもので、政府機関は暗号化された情報しか見ることができない。だから、政府が誰がワクチン接種を完了したのか個別把握はできない。しかし、政府が掴める情報に限界があると対策には生かせない弱点も露呈している。

 最近、フランス人の友人のドイツに住む娘に起きた出来事は、ドイツ人のイメージを変えるものだった。彼女が出産した病院で医師が出産時に胎盤を摘出するのを忘れ、出血多量で死にかかったおぞましい医療ミスが発生した。夫婦ともにフランス人で英語で対応してきた医師らは、急にドイツ語しか喋らなくなり、簡単にいえば明らかに医療ミスの隠ぺいに走ったそうだ。

 周囲の人は病院や医師を訴えるべきだとアドバイスしたが、アウェイでの裁判で戦えないと判断し、諦めたそうだ。呆れるようなレベルの低い医療ミス、その後のドイツ語だけ喋る始めた隠蔽行為は、私のみならず、友人の周辺のフランス人、英国人のドイツ人に対するイメージを根底から変えた。

 深読みすれば、実はその娘の夫は黒人で、しかもイスラム教徒だった。娘自身はフランス人の父、英国人の母を持つ完全な白人で、流ちょうな英語を喋っていた。

 私は感染症の専門家でも何でもないが、感染症には人間が媒介となるため、人間の行動様式が大きな影響を与えるのは理解できる。まず、マスク着用の慣習のない欧州人にはマスク着用はハードルが高い。人とはキスやハグをして濃厚接触が当たり前の欧州ではその習慣を変えるのも難しい。

 さらに政府による強制への抵抗感も日本の比ではない。個人の自由の権利が保障される民主主義の発祥の地である欧州では、個人の選択や権利は最優先に守られるべきと考えられている。ロックダウン、営業停止、テレワークも彼らにはハードルが高い。法で縛ろうとしても守らない人も少なくない。

 コロナ禍で欧州で何が変わったかと聞かれれば、欧州人も政府のいうことを聞くようになったことだと私は答えている。いわばコロナウイルスに屈した形だが、それでも日本人のように従順ではないし、今は「ワクチンを2度打ったから自由」という空気があふれている。

 最初に衛生パスを導入したデンマークは人口約580万人に満たない小国なのに、1日の感染者数は7,000人に上っている。北欧からマスク着用している人はいなくなっていた。アフターコロナで見えるものは、人間が科学を最強の武器としたことが誤りだったと認識し始めたことかも知れない。

 日本人のように中国やロシア同様、個人の権利より、政府に従順な国民は感染を抑えられている傾向があるが、それがいいともいえない。日本入国で7時間空港で拘束された日仏家庭の30歳の男性は、空港に火を知けたいほど怒りがこみ上げたという。理由は自分の前で次に起こることについての一切の説明がなかったからだ。

 彼は「日本政府のやり方は、コロナより恐怖を感じた」といい、「多分中国人は中国共産党の強権抑圧の中で、それに慣らされていったのだろうと思った」といっている。そういう彼も「空港から隔離施設に到着した時、自分の中で何かが変わってしまい、組織に従順な別人格になっている自分を感じた」ともいい、恐怖を感じたそうだ。

 コロナ禍を切り抜ける回答は見つかっていないが、表面的に発表される予防対策措置だけ見ても物事の本質は分からないことは確かといえそうだ。私のような異文化理解を専門とする人間には、このコロナ禍は最初から人間の問題にしか見えない。

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