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 芸術という最も創造性が求められる世界で常識となっていることが、ビジネスの世界には、まだまだ定着していない感は否めません。私は長年、ビジネススクールで教鞭をとり、ジャーナリズムの世界にも身を置きながら、ライフワークとして芸術に深く関わってきました。

 今、ビジネスの世界は過去のいかなる時代よりユニークなアイディアが求められ、創造性とイノベーションは全てのビジネスの鍵を握るとさえ言われている。にも関わらず、残念ながら、それを代表する芸術との溝は非常に大きいと感じる。

 理由は、さまざまな研究から、創造性が右脳と左脳にまたがる広い分野が使われるのに対して、多くのビジネスマンは論理的思考を司る左脳に偏っているからという説明もできます。

 ある時、明晰な頭脳で知られる方にある観光地を案内されたことがあります。その人物の頭の中には名所旧跡の知識は詰まっている一方、ものすごいスピードで移動を繰り返したことに驚かされました。

 後で分かったことは、彼にとってはその風光明媚な場所に身を置いてじっくり味わうという感性が、完全に抜け落ちていることでした。同じ人間として驚きでした。日本人にはその傾向があり、旅行で短期間に驚くべき回数移動を繰り返すのも、日本人が左脳型人間だからといえそうです。

 もう一つ、創造性に重要なことは、「自由」と「時間」。日本は統率のとれた組織を重視しており、集団の秩序を乱さないことは小さい時から訓練されています。たとえば欧米には「社会人」という概念が薄い。社会人とは社会の慣習や秩序に順応する人間を指している。

 芸術から自由を奪ったら、何も新しいものを生み出せなくなる。少なくとも心を束縛すれば命取り。興味深いのは社会主義だったソ連では、世界に名を残す作曲家や画家は数は少ないにしても生まれたが、中国にはなかったことです。

 中国共産党に対する忠誠心、指導者への人間信奉が強要され、心か拘束されたために芸術の命は経たれたといえます。

 時間軸も問題で、ビジネスが単なるスピード感というのなら、創造性は生まれない。前出の頭脳明晰な人間が風光明媚な場所で、じっくり味わう時間を持つ必要性を感じないのは、左脳が肥大しているからですが、時間軸も存在しない。創造的行為には時間は絶対的に必要です。

 つまり、迅速な意思決定とか生産性向上と創造性、イノベーションを直結させるのは間違っていると私は思っている。それに合意形成型の意思決定は創造性の芽を摘む。

 たとえば五輪のスタジアム建設やエンブレムの決定には、多くの政治家や役人が関わっている。結果的に可もなく不可もないつまらないものが選ばれるの傾向が圧倒的に強い。このブレーンストーミング幻想は多様な意見を取り込める半面、ユニークな意見を抹殺する恐れがある。

 芸術の世界でも合作ということはありますが、圧倒的に個人の主張が重視される。それもゼロベースでの創造が大前提です。だとすると日本の組織は大幅な改善が必要。左脳集団の中では右脳は使われず、劣化し、右脳の優れた人間は活躍の機会が与えられない。女性が活躍できない理由の一つではないでしょうか。

 教育の現場でもビジネスの最前線でも左脳、つまり理性重視は変わっていない。デジタル時代をけん引するITのインフルエンサーたちの多くも、クリエイティブでかっこいいように見えて、芸術を知る者からすれば、創造性に近づいているとは思えません。

 今後、希望的観測として、ますます重視されるであろう創造性やイノベーションについて、本気で取り組めば、世界は大きく変わるはずだと思います。

 2019年冬、パリのルーヴル美術館で開催された「ダ・ヴィンチ展」は過去最多の110万人の来館者を世界から集めました。芸術と科学に関する次の時代の答を求めようという機運が高まっていたのかもしれません。

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